21世紀COE研究拠点形成プログラム 生命の文化・価値をめぐる「死生学」の構築
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東京大学文学部公開講座
生と死を考える―21世紀COEプログラム『死生学』への招待

日時2006年12月8日(金)18:30〜
場所北海道北見市民会館
講演者 関根清三 *
(東京大学)
島薗進 *
(東京大学)
*事業推進担当者


   オホーツク海に面する北海道常呂町には東京大学文学部の附属施設がある。1950年代より続く考古学の発掘調査や実習の拠点である北海文化研究常呂実習施設である。その縁で常呂町において2000年より東京大学文学部公開講座が行われてきた。常呂町は2006年3月、北見市と合併し北見市常呂町となった。そこで今年度の東京大学文学部公開講座は常呂町とともに北見市中央でも行われることとなった。そしてこの記念すべき年の公開講座が、21世紀COE「死生学の構築」の市民に開かれた知的交流の場として提供されることとなった。
 これまでも21世紀COE「死生学の構築」は市民に開かれた学知の場の形成に取り組んできた。だが、シンポジウムや講演会の場は、ほぼすべて東大のキャンパスだった。ところが、今回の公開講演会は初めてこちらから地域社会に赴いて行うこととなった。地域社会の方々に東大に来ていただいたのは2004年12月のシンポジウム「べてるに学ぶ―《おりていく》生き方」だったが、同じ北海道に今度は出向いていくことになった。
 高橋和久文学部長兼常呂実習施設長や石川薫文学部事務長、21世紀COE「死生学の構築」の事業推進担当者で考古学研究室の大貫静夫教授らとともに女満別空港に降り立ったのは12月8日の昼頃だった。常呂実習施設に常駐する熊木俊朗助教授らに迎えられ、時に雪が舞う中を常呂町に向かう。常呂高校で山本貴司校長や町政に関わる方々と懇談し、体育館での講演会に向かう。午後2時より1時間ほどをかけて、事業推進担当者で倫理学専攻の関根清三教授と拠点リーダーで宗教学を専攻する島薗がそれぞれの立場から死生学とは何かについて話をした。人口5000人ほどの常呂町に位置し、全校生百数十人とともに先生方や一般市民も加わっての講演会だった。
 一服後、北見市へ向かい、北見市庁を訪問して神田孝次市長らと懇談の後、午後6時半より北見市民会館で「生と死を考える―21世紀COEプログラム『死生学』への招待」を行った。北見市教育委員会と東大との共催で、「道民カレッジ」の講座の一環とも位置づけられた。百数十人の聴衆を前に、まず高橋文学部長によるユーモアあふれる挨拶があり、熊木助教授の司会の下、まず島薗が「現代日本人の死生観と霊性」、続いて関根教授が「老いと死について考える」と題してそれぞれ1時間ずつの講演を行った。
 かつてのように死後の魂の行方を見定めることができず、死と向き合うすべを失ったとされる現代人だが、それでも死に向き合い、残された日々を豊かに生きていくすべは十分に見出しうるはずだ。人文社会系の学問は市民ひとりひとりのそうした試みに資するような学術成果を産み出し、市民生活との生き生きとした対話を続けていく必要を自覚している。死生学とはそのような場を生み出そうとする試みでもある。これまでの死生学の成果を市民生活に還元しようとする試みであるが、聴衆はたいへん熱心に耳を傾けて下さった。
 その後、北見市の神田市長や井原久敏副市長(常呂自治区長)、白馬孝治教育長ら、北見市政関係者とともに夕食をともにしながら語り合いのときをもった。外へ出るとすでに午後10時を回っており、雪はあがっていたものの零下10度近い夜の北見市の人通りは少ない。だが、耳を傾けて下さった方々の記憶は鮮明である。短い時間で市民とひざを付き合わせての対話とはならなかったが、地域社会で死生学の成果を問う意義深い1日となった。
                                文責  島薗 進(本COE拠点リーダー・宗教学)


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