21世紀COE研究拠点形成プログラム 生命の文化・価値をめぐる「死生学」の構築
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アン・モンガバン助教授講演研究会
命のギフトと命のリレー:臓器提供のレトリックが意味するもの
(Gift of Life versus Relay of Life: Implications of Organ Donation Rhetoric)

日時2005年5月9日(月)17:00-19:00
場所東京大学医学図書館3階 333教室.
共催東京医学会 第2359回集会
講演者 アン・モンガバン助教授
(インディアナ大学宗教学助教授)

モンガヴァン氏は、2004年秋より日本の臓器移植をめぐる象徴的思考をアメリカのそれと比較すべく、調査研究のために日本に滞在し、あわせて本COE「死生学の構築」のさまざまなプログラムに関わってきた。この度の講演は、日本での調査の結果を踏まえ、日米両国の臓器移植をめぐるレトリックを比較しながらその特徴を明らかにしようとするものだった。

米国では、生体間臓器移植には大きな倫理的問題があると考えられているが、脳死体からの臓器移植には倫理的問題がないと理解されている。ところが日本人の認識はこの対極に位置する。このような違いが生ずる理由につき、日本のインダビュイーは多くの啓発的な発言をしてくれたという。人間が人間であるゆえんを「頭(=脳)」の機能に見るか、「心(=心臓)」の機能に見るかの相違は明白なようだが、それは孤立した箱に入った「ギフト」の授受のイメージに対して、人と人とが手をつなぐ温かいつながりをイメージさせる「リレー」のイメージとも関連している。

また、アメリカで脳死臓器移植が好まれる際には、「犠牲による再生」のイメージが関わっており、知らず知らずのうちにキリスト教的なレトリックが影響を及ぼしているが、それはあまり自覚されていないこと、他方、日本では生体間移植が近しい者の間でいつしか善意の強要の意味をもってしまうことがほとんど認識されていないこと、関係やつながりを重視する文化規範の問題点が十分に自覚されていないことなどが、指摘された。

モンガヴァン氏は「生命倫理に対する宗教学的なアプローチの特徴は、文化が含みもっている象徴的な思考に注目し、その倫理的な意味を明らかにしていくことである」とし、日米両国の臓器移植の比較研究において、そうしたアプローチの有効性が示されつつあると論じた。これは従来の「死生学」を拡充しながら、人類文化の多様性の中に死生学を位置づけ直そうとする本COEの目標と一致するところがある論点と思われる。本講演研究会は、東京医学会との共催であり、医学・健康科学関係者が多数参加する機会となった。また医学・健康科学関係者ばかりでなく、宗教関係者など現場的、臨床的な関心をもつ研究者の質問があいつぎ、豊かな討議が行われた。

シンポジウムの様子 シンポジウムの様子

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