21世紀COE研究拠点形成プログラム 生命の文化・価値をめぐる「死生学」の構築
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坂部恵名誉教授講演会
他者の個人主義 生・死のはるけさについて

日時2004年5月26日(水)16:00-17:30
場所東京大学法文2号館 1番大教室
共催布施学術基金 「東洋の文化」第12回

2004年度布施学術基金講演会が、5月26日、東京大学法文2号館1番大教室で開催された。講演者は坂部恵東京大学名誉教授、演題は「生・死のはるけさ」というものであった。なお、今回は、21世紀COEプログラム「生命の文化・価値をめぐる『死生学』の構築」との共催となった。

斉藤明教授の全体司会のもと、最初に稲上毅研究科長の挨拶、続いて島薗進(本COE研究拠点リーダー)の挨拶があった。故布施郁三氏のご親族にもご臨席たまわった。

講演は、夏目漱石の「私の個人主義」という、1914年の講演を取り上げることから始まった。それは、西洋の文明を取り入れ始めた明治期以降、個人主義の確立はずっと日本の知識人(あるいは民衆)にとって課題であり続けた、という問題関心からのものだと思われた。それから話は、和辻哲郎の「人間」という概念の背後にある、日本の「村」的メンタリティの指摘へと進み、一転して、西洋における個の思想の淵源として、ノミナリズムと神秘主義とを指摘することに向かった。ここから、近代民主主義が生まれたというのである。

要点は、各人が神に直結する、とするところから、信徒の平等という考えがおのずと帰結するということにある。そして、個のアトム化という危険に対する歯止めとしては、経験論の社会哲学では自然法が考えられたのだと言う。

話題は更に、神秘主義の源流をたずねて、ギリシャ教父から始まる東方キリスト教思想の伝統にまで及び、ここで「大乗キリスト教」という刺激的な表現も出てき、幾人かの聴衆をうならせたようである。それから、キリスト教と仏教との、化身の概念を巡る照合の話があって、坂部先生ならではの論展開となった。

最後に、演題である「生・死のはるけさ」における「はるけさ」という語がどのような意味内容、語感をもつものか、その説明があった。やまと言葉を大切にし、それを手がかりに思索を進めるという、先生の一つの方法がみられた話である。聴衆が、生と死とについての新しい見方へと開かれるために、この語に導かれてどのような事柄に想いを馳せたか、興味深いものがある。

(事業推進担当者・松永澄夫)

シンポジウムの様子 シンポジウムの様子 シンポジウムの様子

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