21世紀COE研究拠点形成プログラム 生命の文化・価値をめぐる「死生学」の構築
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クリスティアン・シュタイネック氏講演会
“Japanese bioethics in a globalized world”

日時2006年10月24日(火)17:30〜19:30
場所東京大学本郷キャンパス法文1号館 219教室
主催DALS(東京大学21世紀COE
「生命の文化・価値をめぐる死生学の構築」)
発表者 Christian Steineck (クリスティアン・シュタイネック)
ボン大学近現代日本研究センター研究員
司会島薗進*
東京大学教授
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*事業推進担当者

 2006年10月24日、午後5時半より、法文1号館219番教室において、ボン大学近現代日本研究センターのクリスティアン・シュタイネック氏が、”Japanese Bioethics in a Globalized World”をテーマに講演し、ひき続いて英語で活発な討議がなされた。シュタイネック氏はもともとの研究領域は哲学であるが、ここ数年は日本の生命倫理の政策、討議、研究の状況について調査研究を進めてきた。今回の講演では、同氏はこれまでの調査研究の成果を踏まえ、日本の生命倫理について国際的な視点からどのように捉えられるかについて論じた。日本語が堪能なシュタイネック氏であるが、あえて英語による講演をお願いしたのは、日本の生命倫理が海外からどのように見えるかについて反省し、討議するには国際的な交流場面で使用頻度が高い英語の使用が適切ではないかとの判断によっている。
 シュタイネック氏はまずそもそも生命倫理問題が国境を越え、文化を越えて広まり、またさまざまな社会領域を越えて展開していくことによってどのような問題が生じるかを考察するための論点整理を行った。政策決定上の問題、法的制度化の問題、そして倫理問題の学問的討議とがどのような相互関係をもったかはとくに重要である。また、普遍的な概念で考察すべきことと文化的な特性による配慮をどのように結合すべきか、単純な定式はしにくい。日本の場合、西洋の生命倫理の吸収に熱心に努めてきたが、日本の独自性を打ち出そうとする姿勢もしばしば見られ、それがナショナリズム的な傾向を示すこともあったとする。日本では生命倫理の領域でも他の諸領域でしばしば顔を出す「日本人論」の影響が大きく、文化ナショナリズムが幅を利かせやすい。
 一般に「文化」が議論において大きな役割を果たす場合、それがどのような政治的意図を担ったものであるかに注目する必要がある。また、文化相対主義によって、国境や地域を越えた議論の展開を阻害するような傾向が生じていないかどうかも見守るべきだ。これは文化を踏まえることによって生命倫理問題に対する独自の貢献がなされることを否定するものではない。確かに日本の生命倫理の展開には独自のものがあり、そこに文化伝統が関わっていることはありうる。
 続いて、シュタイネック氏は1960年代以来、今日に至るまでの日本における西洋の生命倫理学や生命倫理をめぐるシステムの導入を3つの時期と問題に分けて論じた。それぞれ、インフォームド・コンセント、脳死・臓器移植、ヒト胚研究の3つの問題が特徴的な例となる。制度的に世界の中でも独自な展開をしたのは脳死・臓器移植の場合である。しかし、そこで討議された内容は必ずしも世界の議論に影響を及ぼすには至っていない。これは日本の生命倫理が言説のレベルで発信力が弱いことが大きな要因となっている。
 以上の講演に対して多くの質問があり、人工妊娠中絶問題や出生前診断をめぐる日本の議論と実施の現状をどう見るか、日本の議論が独自の内容をもつとしてそれを世界の討議に反映させていくためにはどのような工夫が必要かなど活発な討議が行われた。


講演会の様子 講演会の様子

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