21世紀COE研究拠点形成プログラム 生命の文化・価値をめぐる「死生学」の構築
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ニック・ザングウィル氏連続講演研究会
5月9日:“The Indifference Argument”
10日:“Perpetrator Argument: Some Reflections on the Browning/ Goldhagen Debate”

日時2006年5月9日(火)10日(水)17:00-19:00
場所東京大学法文2号館 哲学研究室
講演者 ニック・ザングウィル博士
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 5月9・10日、文学部哲学研究室にて、ニック・ザングウィル博士の講演研究会がCOE主催、哲学会共催で開催された。ザングウィル氏は、グラスゴウ大学講師やオックスフォード大学フェロウ等を歴任、倫理学、心の哲学などでも多くの業績がある。

 第一日目は道徳的判断と行為の動機との関係をめぐるカント以来の倫理学の中心的課題が論じられた。ザングウィル氏は、道徳的判断は本質的に行為を動機づけるとするカント流の「内在主義」と、道徳的判断と行為の動機は別個で、行為は欲求など道徳にとって外的な要因から動機づけられるとする「外在主義」との対立を取り上げ、外在主義的な観点に、より説得力があると論証しようとした。氏は、道徳的判断と動機との独立性を主張する「the indifference argument」を例示した。悪いという道徳的判断をしつつも殺人行為を犯す「傭兵」などの実例や内在主義的な立場からの反論に対する詳細な検討を踏まえて、氏は外在主義的視点の正当性を訴えた。

 二日目は、第二次世界大戦中のユダヤ人大量殺戮「ホロコースト」が論じられた。ザングウィル氏は「ホロコースト」の理解に際し、ゴールドハーゲンとブラウニングとの間で近年論争となった論点を取り上げた。「反ユダヤ主義」こそが多くのドイツ人を殺戮に向かわせたと考える前者に対し、後者はイデオロギーだけでなく、当時の多様な状況が、兵士を行為に至らしめたと解する。氏は、証拠や証拠評価の検討を通じて、おおよそゴールドハーゲン的な理解を補強しようとした。大量殺戮の責任を誰が担うべきかという「責任」の概念について疑念が提起されるなど、活発な質疑や議論が繰り広げられた。二日間にわたり、予想以上の濃密な議論が行われ、「死生学」プロジェクトのさらなる前進を実感した。

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