21世紀COE研究拠点形成プログラム 生命の文化・価値をめぐる「死生学」の構築
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ニール・クラウス博士公開講演研究会
宗教、エイジング、健康の関連
(Religion, Aging, and Health)

日時2005年5月31日(火)17:00-18:30
場所東京大学法文2号館 1番大教室
講演者 ニール・クラウス博士
(ミシガン大学公衆衛生学部教授、同大学老年学研究所研究教授)

今回の講演研究会は「宗教、エイジング、健康の関連(Religion, Aging, and Health)」と題し、特に宗教的志向が高くなる高齢者において、宗教行動や信仰心が健康とどのような関連があるのかを論じるものであった。クラウス氏は本講演において、定期的な教会への出席が死亡率を低めるとの知見を引き、そうした宗教的な関与のどの側面が鍵となっているのかを突き止める必要があると指摘した。

人生で生じる出来事は、運や他者などの外部の力ではなく自分の力によって決まる、という感覚を持つことは一般に人の健康と結びついているが、こうした統制感は加齢に伴い低下する。そのとき、信仰を持つことで、神の力をかりて人生における諸問題を乗り越え、目標を達成することができるという「神の媒介による統制感」が得られる。調査の結果、こうした感覚が強い人ほど、精神的健康が高いことが明らかになった。一方、氏は、神道か仏教を信仰する人が多い日本では、神道と仏教の重要な側面である「先祖への祈り」の中に家族の健康や守護の祈願が含まれていることに注目し、そのような「祖先崇拝」にも「神の媒介による統制感」と同様の効果があるのでは、と指摘した。また他に、宗教による情緒的なサポートの日米比較、宗教に対する疑念の有無などにも言及があった。

最後に、太古の昔から形は違えどあらゆる文化に存在する宗教には何らかの機能があるはずであり、その一つが高齢者の身体的・精神的健康の向上なのかも知れないと論じた。 加齢や死は全ての人間にとって避けられない問題である。身体的機能や人間関係など、様々な喪失を経験する高齢者の健康を宗教あるいはスピリチュアリティの面から検証する実証研究は、我々個人にとっても、社会全体にとっても重要であることを学ぶことができたという点で、本講演研究会は非常に有意義であった。

シンポジウムの様子 シンポジウムの様子

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