21世紀COE研究拠点形成プログラム 生命の文化・価値をめぐる「死生学」の構築
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松尾剛次教授講演研究会

第1部 死の中世  官僧・遁世僧モデルの立場から
日時2004年7月6日(火)17:00-19:00
場所東京大学法文1号館 215教室
第2部 死生学と中世律僧
日時2004年7月14日(水)17:00-19:00
場所東京大学法文1号館 215教室

本COEプログラムの特任教授として集中講義を担当していた松尾剛次氏の連続講演会が開かれた。

第1回講演「死の中世」では、松尾氏の持論である官僧・遁世僧モデルの立場から、僧侶と葬送とくに死体との関わりなどに関して触れ、鎌倉時代に生まれた仏教の新しさについて具体的に論じた。 講演の前半では、これまでの鎌倉仏教の研究史の上に立って、氏の持論とする官僧・遁世僧モデルがどのように位置付けられるかを概観した。通説A(鎌倉新・旧仏教論)は戦後大きな力を持ったが、その後の研究の進展に伴い、通説B(顕密体制論)が主流となった。しかし、通説Bでは中世仏教の実態を必ずしも明らかにできないところから、官僧と遁世僧のダイナミックな関係を中核に置く氏の官僧・遁世僧モデルが生まれた。

講演の後半では、この立場に基づいて、特に遁世僧たちが庶民の葬式を行なったことを取り上げ、それが日本人の死生観の確立に大きな影響を及ぼしたことを、史料に基づきながら論証した。遁世僧は、官僧(官僚僧)身分を離脱することにより、穢れの観念からも自由になり、葬式など官僧にとって制約のあった種々の活動に従事した。それにより、従来貴族などの限られた範囲にしか及ばなかった仏教による死後救済が、広く行なわれるようになり、「個」の救済としての仏教の役割が一層大きくなった。

約1時間の講演後、後半の時間は討論に当てられ、さまざまな意見や質問が出された。例えば、以下の通り。

  • 死後の救済と死体の処理という二重の問題として考える必要がある。
  • 死穢とともに産穢についても考える必要がある。
  • インドの場合も、密教になると葬式儀礼が発展する。
  • 近世の家の宗教としての葬式仏教とのつながりがこれからの課題。
  • 行基・空也・時宗などの活動をどう見るか、検討が必要。

(末木文美士)


第2回講演「死生学と中世律僧」では、中世遁世僧の独自性が、死者の救済、葬送体制の整備、死生観、死の美術等々の関わりを通して論じられた。

まず、中世仏教の実態を、官僧と遁世僧の共生・分業・対抗関係として捉える考え方が示され、西大寺律宗の事例をもとに、遁世僧の活動の独自性が、官僧との関係においてどのように担保されていたかが述べられた。さらに、律僧たちの遁世僧としての独自の活動の中心に、葬送への積極的関与があることが示され、光明真言会の創始、斎戒衆の組織、非人の統制などの具体事例を挙げながら、律僧と死者との関わりの諸相が示された。律僧の律僧たるゆえんである「戒律」の清浄性をめぐって、それが古来官僧にとってのタブーであった死穢の怖を容易に克服する根拠となったこと、死体を扱う呪術・技術によって、不浄な存在とされてきた死者を尊重すべきだという観念をもたらしたこと、五拾塔・舎利瓶等々の死の美術の創造にも重要な役割を果たしたこと、等々が指摘された。

1時間強の講演に引き続き討論が行われ、死体の「尊重」とは何か、死体を恐れる心性は本質的に「尊重」ではないのか、また、遁世僧出現以前における、官僧周辺以外の葬送の実態を探求すべきである、等々の意見・議論が活発に交わされた。

(菅野覚明)

シンポジウムの様子 シンポジウムの様子

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