21世紀COE研究拠点形成プログラム 生命の文化・価値をめぐる「死生学」の構築
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アレックス・ローゼンバーグ氏講演会
適応、確率、および自然淘汰の諸原理
(Fitness, probability, and the principles of natural selection)

日時2004年5月18日(金)17:00-19:00
場所東京大学法文2号館 哲学研究室
共催哲学会

去る2004年5月18日、東京大学大学院人文社会系研究科哲学研究室において、Alex Rosenberg教授講演研究会・「適応度・確率・自然選択原理(Fitness, probability, and the principles of natural selection)」が開催された。午後5時よりの開演で、自然科学系の研究者も含めて、30名を越す聴衆が参加した。

Alex Rosenberg氏はアメリカのDuke Universityの教授で、主として科学哲学の分野で多くの業績を残してきた研究者である。とりわけ、氏は、進化理論の哲学に関する専門家で、本COE「死生学の構築」が、「死」だけでなく「生」をも扱うプロジェクトである点を鑑みて、進化理論にまつわる哲学的問題の講演を企画したのである。実際、進化理論に基づいて「殺人」現象を理解しようとする進化心理学の立場などもあるし、子供のために自らの命を犠牲にするような利他的行為も進化理論的に説明されることがしばしばあることからも分かるように、進化理論と「死生学」は浅からぬ関わりをもつといえるのである。

Rosenberg氏は、まず、自然選択の原理を「集団」の「中心的傾性」に関して適用し、「個体」には適用せず、そして「適応度」を客観的確率として理解する、という現在有力な見方を紹介し、それを検討することから議論をはじめる。この立場は、客観的確率として、より多くの子孫を残す「傾向性」(propensity)、あるいは「相対頻度」(relative frequency)のいずれを取るかによって、異なった形態がありうる。Rosenberg氏は、こうした確率概念に焦点を合わせて、批判的議論を展開する。「相対頻度」として「適応度」を考えた場合、有限系列の事象をどう理解したらいいか、という基本的問題に直面する。また、「傾向性」として「適応度」を捉えるときには、どういう「傾向性」かを決めるのに自然選択についての先行決定を必要とするという循環に陥る。さらに、そもそも、「適応度」が低いものがより多くの子孫を残すという現象に対しては、これらの確率的アプローチは有効でない、とも指摘する。そうして氏は、自然選択原理と熱力学第二法則とを類比させるパース以来の見方をも斥けた上で、適応度を正しく理解するには、「選択」と「(遺伝的)浮動」とを明確に区別することが最も大切であり、そのことは「集団」ではなく「個体」に対して「適応度」を測っていくことを要請するのだ、と論じた。

なかなか難解な講演だったが、質疑の時間になると、さまざまな質問が出て、議論は大いに盛り上がった。とりわけ、「確率」の概念の用法について、私自身の質問も含めて、複数の質問が出た。私は、Rosenberg氏が、「個体」レベルの「適応度」を語るときにやはり「頻度」としての「確率」を問題にしつつ、同時に「原初的条件」を明らかにすればすべて決定論的に理解できる、と論じた点に関して、そこでの確率と決定論はどう両立するのか、と尋ねてみた。Rosenberg氏は、原理的なレベルで決定論を取ることと、実際的なレベルで確率を用いることとの相違である、と答えた。

その他、理論的にさらに議論を重ねるべき問題が多々あったが、進化理論の哲学が現在どのような文脈で論じられているのかを十二分に知ることができ、大いに有意義な講演研究会であった。講演後、本郷三丁目の地下鉄駅の近くで懇親会を行い、たくさんの方が出席した。他大学の研究者や理科系の研究者も交えて、さまざまな議論が飛び交い、「死生学」プロジェクトが広がりゆくさまを実感した。

(事業推進担当者・一ノ瀬正樹)

※ローゼンバーグ教授の主な著書には、”Hume and the Problem of Causation, 1981” ” Darwinism in Philosophy, 2000” ” The Philosophy of Science, 2000”などがある。また、ローゼンバーグ教授の業績等については Rosenberg 教授のホームページも参照。本講演の原稿(英語)もここで見ることができる。

シンポジウムの様子 シンポジウムの様子

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