21世紀COE研究拠点形成プログラム 生命の文化・価値をめぐる「死生学」の構築
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サブテーマ4: 生命活動の発現としての人間観の検討

事業推進担当者

武川 正吾社会学
横澤 一彦心理学
立花 政夫心理学
林 徹言語学
赤林 朗医療倫理学
甲斐 一郎健康科学
西平 直教育学
秋山 弘子社会心理学

生と死は、それぞれ対極に存在するものであると同時に、相互にその存在を依存している。「死」というものを位置付けるには、「生」の位置付けや意味を考える必要がある。万物の霊長たる人の「生」の突出した特徴は、言語活動・思考・学習・意識その他の高度な精神活動を営むことができ、それ故高度な文明社会を発展させてきたところにある。この高度な精神活動は、複雑かつ精緻に張り巡らされた神経細胞のネットワークによって実現されている。これらのネットワークがどのように活動して情報処理を行っているかを研究することによって、高度な精神活動のメカニズムに迫ることができると考えられ、このような研究が人の「生」とはなにかについて考える際のフレームワークを提供する。このような観点から、第4部会では、先端的技術を駆使して、生命活動の発現としての神経活動や脳活動を明確に記述し、認知、記憶、言語、概念などの行動レベルでの理解を深めることによって、人間の肉体的・精神的活動としての個体における生を検討することを目指している。

上述のような行動レベルは、意識と密接につながっており、心理学的研究を通じ人の意識が探求されてきた。今後も、実験データを蓄積し、意識とは何かについて考え、死生観をより豊かな視点でとらえるためのきっかけや考える材料を生み出さなければならない。また、人間観の形成に影響する思考を対象として、そこに文化差が存在するのかどうかを調べる。人間の性格をどのように認識するかは、ときとして、生死の問題と深く関わってくる。強制力が強い状況に置かれ、大多数の人が特定の行動をとらざるをえなくなるという場合でも、ある人物がその状況でその特定の行動をとったことを知ったとき、多くの人は状況を無視してしまうという。このような対応バイアスがはたらくと、個人、あるいは、国民、民族といった集団について、誇張された、あるいは実在しない「性格」を認識する結果になる。それはさらに、「人間」というものについて、歪んだ認識を形成することにつながり、ときとして、生死に関連する人間の判断に影響を与えることにもなる。

生のとらえ方は言語現象のさまざまな面にも影響している。例えば、表現される対象が生命を持つものかどうか、特に人間かどうかは、語形や構文などの選択に少なからぬ影響を与える。また、自然現象や無生物が生命体のメタファーを用いて表現されることも多い。しかし言語/方言への生命の反映は多様であり、それぞれの文化が異なるやり方で生命活動を概念化し慣習化している。そこで、できる限り多くの異なる言語/方言を調査し、生命活動の反映を総合的に明らかにする必要がある。それぞれの文化に固有の人間観を理解する手がかりが得られることが期待でき、新たな生命観の創成に寄与することを目ざす。

さらに、行動科学的な生命活動の理解と医学的な生命活動の理解との関連を深く明らかにすることも第4部会のテーマである。医学や生理学など自然科学系で扱う「生命」に関わる問題と、人文学諸学が扱う問題レベルとはこれまで大きな乖離があり、その乖離を埋める役割をも積極的に果たすために、学際的な連携を重視したい。先端的研究の多くがそうであるように、純粋に技術的な可能性そのものを追求する自然科学的欲求に対して、人文学諸学は様々な分野の歴史的背景に従って積極的に発言する必要があろう。こうした観点のもと、とりわけ医学系の研究者との共同作業に積極的に立ち向かいたい。学際的連携を大胆に進めることで、「生命」に関する現代的価値観に目を注ぎたいと思っている。

(横澤一彦)


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