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サブテーマ3: 死生観をめぐる文明と価値観事業推進担当者
誕生から死に至るまで、人間の生命活動は、ほとんどの場合、生の自然のままに表れることはなく、文化的諸活動の一環として、何らかの価値を帯びたものとして表現される。日常を生きる人間にとっての生と死とは、事実上、文化のフィルターを通した、価値としての生と死にほかならない。種として誕生した生命が、種に固有の生と死とを抱えるように、人間は受け取った価値観に象られた、固有の生と死とを経験する。異種の生命間には、捕食・被食、あるいは寄生・共生の関係が成り立つように、異なった価値観の間には、抗争・共存、分離・統合の力が働く。そして何より生命は、この異種間に働くダイナミズムを通して、生命全体の持続・発展を図るように、人間はさまざまに異なった価値観のせめぎ合いの歴史を通し、生と死という根源的問題に向かう価値観を構築していく。死生観とは、人間としての固有の生と死の意味を了解するための、究極的な価値観にほかならない。 従来、生命をめぐる倫理的・価値的諸問題は、主にアメリカを発信地とするバイオ・エシックスの領域で研究されてきた。しかし今日的な課題に光を当てようとするバイオ・エシックスは、一方では原理的・哲学的問題をめぐる研究に疎く、他方では生命をめぐるさまざまな文化・価値観の差異に対して鋭敏さを欠き、総じて、この両者に対する歴史的な視点を欠落させてきた。人類の歴史を通して、諸文明の中でいかに異なった死生観が誕生し、持続し、変化し、共存し、抗争し、統合され、分離して行ったか、この問題を全体として明らかにする試みは、特定の関心事を際だ出せようとするのではなく、人間にとっての生と死の課題全体を浮かび上がらせ、現在を関心の中心とするバイオ・エシックスにとって、適切なコンテクストを提供しようとするものでもある。 こうした意識に立ち、第三部会では、死生観をめぐって、諸文明の宗教的基盤とその価値観に関し、従来切り離されがちであった教義的側面と実生活の側面を統合して理解する枠組みを構築し、加えて世界の研究者との領域横断的なネットワーク形成を企図する。具体的には以下4点を柱とする。
これらの作業は、宗教学、インド哲学仏教学、日本文学の若手研究者、大学院生を積極的に参加させて実施し、次代を荷う若手研究者育成の一助とする。全体の成果を、世界宗教学宗教史学会議(2005年3月に開催予定)にあわせ、世界の宗教研究者・研究機関とのネットワークをより確かにものするとともに、プロジェクトを発展・継続させるための基盤としたい。 (下田正弘) |