32 多分野プロジェクト研究

  多分野交流プロジェクト研究は、平成7年4月に大学院が改組され、いわゆる「大学院重点化」が行なわれた際に、その改革の中核的な位置を占めるものの一つとして発足した。すでに平成5年度より部分的に試行されてはきたが、平成7年度の正式な発足により、本プロジェクトは人文社会系研究科の専任教員に加え、15名の客員教員(併任教授5名、連携教授・助教授10名)の参加を得て、本格的にスタートすることになったのである。
  発足に際しては、<人間と価値>、<歴史と地域>、<創造と発信>、<社会と環境>という4つの大テーマが立てられた。そして、それぞれのグループの主査のもとに、多くの人文社会系研究科所属教員と複数の客員教員(1プロジェクト平均3~4名)が集まって共同研究の態勢を整え、博士課程の大学院生の参加を得て、共同研究が進められてきた。なお2000年度からは、より広範な大学院生の参加を認めるべきであるという考え方から、院生は博士課程に限定せず、修士課程院生の参加も認めている。このような形で長期間にわたって、狭い個別の専門分野を超えたプロジェクト研究を行なうことは、本研究科にとって、とりわけその人文系の学問分野にとって、新たな画期的な試みである。
  このプロジェクトは、本研究科がその長い歴史のなかで培ってきた学問諸分野の個々の成果を基礎にしながら、各領域間での交流を行ない、人文・社会系の学問に新たな活力を与えようとするものである。ともすれば固定・停滞しがちな従来のディシプリンの枠組みを超えての交流・討論は、新たな視点からのテーマの発見や新しい研究領域の開拓にもつながっていくことが期待される。いずれの講座においても、専門もさまざまに異なる、まさに多分野からの学生が参加しており、そういった意味でこのプロジェクトは、教員にとってはもちろんのこと、今後の学界の発展を担っていくべき若い大学院生たちにとっても、よき創造的な刺激の場として機能しているものと評価できよう。
  平成11年度からは、発足当初の4つの基本的なテーマに限らず、柔軟に様々なテーマに対応することによって、本プロジェクトの持つ潜在的な可能性をさらに追求することになった。この年に設けられた<情報と文化:文化資源と人文社会学>は、新設を計画していた「文化資源学」専攻を準備するためのプロジェクトであり、院生のほかに、文化資源学ワーキング・グループ全員と、本学以外の諸文化機関の専門家が参加した。また平成14年度の「人間の尊厳、生命の倫理を問う」は、同年新設の「応用倫理教育プログラム」の一環をなす演習としても認定された。このように多分野交流プロジェクト研究は、人文社会系における新しい研究領域を開拓していくための重要な役割を担うようになっており、これは本プロジェクトにとって新たな重要な展開といえよう。
  多分野交流プロジェクト研究の推進のためにはワーキング・グループ事務局が設置され、そこでプロジェクト全体の調整や広報のため、ニューズレターが発行されている。刊行ペースは現在年3回、2007年度までで57号を数える。ニューズレターにはプロジェクト案内の他、関連エッセイなども掲載されている。
  2006年度・2007年度に開講されたプロジェクトは以下の通り。

  2006年度
   「生命と価値」論のフロンティア(主査 竹内整一・島薗進)
   環境―実践の現場から(主査 松永澄夫)
   今日の世界文学(主査 柴田元幸)

  2007年度
   「生命と価値」論のフロンティア(主査 竹内整一・島薗進)
   環境―環境と文化(主査 松永澄夫)
   グローバル・ヒストリーと歴史教育(主査 水島司)

  多分野交流プロジェクト研究の直接の成果として出版された論文集には、以下のものがある。
   関根清三編『死生観と生命倫理』東京大学出版会、1999年。
    沼野充義編『とどまる力と越え行く流れ―文化の境界と交通』2000年。
   小島 毅編『東洋的人文学と架橋する』2001年。
   逸身喜一郎編『古代ギリシャ・ローマ研究の方法』2003年。
   柴田元幸編『文字の都市』東京大学出版会、2007年。




前章へ戻る   /   『年報9』Indexページへ戻る   /   次章へ進む