27 文化資源学

1.研究室等の活動の概要
(1) 研究分野の概要
  2000年度に創設された研究室である。正しくは文化資源学研究専攻といい、大学院のみで、学部に対応する専修課程を持たない。文化経営学、形態資料学、文字資料学の3コースから成り、文字資料学コースはさらに文書学、文献学の専門分野に分かれる。
  この構成はつぎのように発想された。われわれの前には、「かたち」と「ことば」の膨大な蓄積がある。文書は書かれた「ことば」、文献は書物になった「ことば」であり、多くの人文社会系の学問は、もっぱらそれらの「ことば」を相手にしてきた。しかし、学問領域はあまりにも細分化され、また情報電卓技術の発達は「ことば」とそれを伝えるメディアとの関係を希薄なものに変えた。一方、「かたち」を研究対象とする既成の分野は、本研究科においては美術史学と考古学ぐらいだが、おそらくそこから無数の「かたち」が視野の外へと追いやられている。
  そこで「文化」と呼ばれてきたものの根源に立ち返って見直し、多様な観点から新たな情報を取り出し、社会に還元する方法を研究することが求められるようになった。それが「文化資源学」であり、とくにその後半部が「文化経営学」と呼ばれるものである。具体的には、史料館、文書館、図書館、博物館、美術館、劇場、音楽ホール、文化政策、文化行政、文化財保護制度などの過去と現在と未来を考えようとするものだ。
  専任教員10人(文化経営学2人、形態資料学2人、文字資料学4人、外国人客員教授1人、助教1人0と学外連携併任教員3人からなる。文化資源学が既成の学問領域を横断するトランス・ディシプリナリーな性格を有することを繁栄して、博物館学、文化政策学、美学芸術学、社会学、フランス文学、中国文学、西洋古典学、演劇学、歴史学、民俗学など多彩な研究者が参加している。さらに学内の史料編纂所、学外の国立西洋美術館や国文学研究資料館と機関連携協定を結んで客員教員の派遣を受けている。今後とも、学外の研究機関・文化機関との連携をさらに充実させていく構想である。

   専任教員

  木下 直之(文化経営学)
  小林 真理(文化経営学)
  渡辺 裕(形態資料学)
  佐藤 健二(形態資料学)
  月村 辰雄(文字資料学・文書学)
  大西 克也(文字資料学・文書学)
  片山 英男(文字資料学・文献学)
  古井戸 秀夫(文字資料学・文献学)

  (2) 大学院専攻・コースとしての活動
  2006年度の修士課程入学者は8人(うち社会人学生が2人)、博士課程入学者が3人、2007年度の修士課程入学者は9人(うち社会人学生が1人)、博士課程入学者が4人(うち社会人学生が1人)であり、社会人に対して門戸を開いている専攻である。それは、大学を社会に対して広く開いていこうとする意思表示であり、本研究科にあっては文化資源学研究専攻がその最先端にある。
  社会人学生は、民間の企業に勤めている者や、国公立の文化機関等を職場にしている。社会人が大学に戻って再教育を受けることや、学部から直接にあがってきた学生に対しては在学中から社会の現場に出るようなインターンシップなどの制度を今後とも充実させていきたいと考えている。
  また特筆すべき活動として以下のものが挙げられる。
  ・文化資源学フォーラムの開催
  「文化資源学フォーラムの企画と実践」という授業を通じて、学生の企画により、一般に広く文化資源学の課題を問いかけるフォーラムを、毎年開催してきた。2006年11月22日には「社会と芸術の結び目-アウトリーチ活動のこれから」、2007年12月14日には「1000円パトロンの時代-ファンドによる芸術支援の現状と課題」を開催した。
  ・東京大学創立130周年国立民族学博物館開館30周年記念フォーラムの開催
  「文化資源という思想—21世紀の知、文化、社会」を、2007年11月25日に東京大学で開催した。関連企画として11月24日に国立民族学博物館で「文化資源という思想:文化財、文化遺産、そして文化資源」、さらにパリ日本文化会館で12月20日に「文化資源の蓄積と表象」、12月21日に「文化財、文化遺産、文化資源」を開催した。
  ・公開講座の開催
  松下電器産業株式会社からの寄付金により、東京大学文化資源学公開講座を開催した。2007年度のテーマは「市民社会再生-文化の有効性を探る」全12回で、延べ約700人の参加者を得た。

  (3) 学会運営、研究誌の発行など
  2002年に本研究室を中心として学内外の文化資源学に関心を持つ研究者、実務家の集まりとして文化資源学会を設立した。また機関誌『文化資源学』を年一回発行し、2006年3月に第4号、2007年3月に第5号を刊行した。

  (4) 国際交流の状況
  2007年度修士課程9名中2名、の外国人留学生を受け入れた。国籍は台湾である。


    2.助手・外国人教師などの活動
  (1)助手の活動
  
  高野 光平
  在職期間:2005年4月~2007年3月
  研究領域:メディア史
  主要業績(2006~2007年度)
   論文「CM──映像文化の歴史的成立」佐藤健二・吉見俊哉編『文化の社会学』有斐閣、137-162頁、2007年2月
     「テレビCMのメディア史」山田奨治編『文化としてのテレビ・コマーシャル』世界思想社、8-29頁、2007年3月
     「映像資料論の実践的課題」大阪市立大学都市文化研究センター編『都市文化理論の構築に向けて』清文堂、233-261頁、2007年3月
     「メディア史料のデジタル化をめぐるふたつの留保」『表現』1号、京都精華大学発行・ミネルヴァ書房発売、15-27頁、2007年7月
     「テレビと大晦日」長谷正人・太田省一編『テレビだョ!全員集合:自作自演の1970年代』青弓社、162-190頁、2007年11月

   その他論考 「黎明期CMの考古学」『東京人』2007年12月号、都市出版、72-77頁。
   学会発表「京都精華大学表現研究機構所蔵・CMデータベースの概要」(ゲスト報告)日本マス・コミュニケーション学会第31期第3回理論研究部会、京都国際マンガミュージアム、2008年3月16日
   シンポジウム報告
    「初期テレビCMの資源化が日本アニメーション史に与える影響」国立民族学博物館開館30周年記念フォーラム「文化資源という思想―21世紀の知、文化、社会」、パリ日本文化会館、2007年12月21日
   研究会発表
     「TCJ作品群にみる初期テレビCMのコンテクスト」京都精華大学表現研究機構テレビCM研究プロジェクト・関西アニメーション史研究プロジェクト第2回合同研究会、京都国際マンガミュージアム、2007年8月22日
     「TCJ作品群の概要と特徴について」京都精華大学表現研究機構・テレビCM研究会準備会、京都国際マンガミュージアム、2006年7月19日
     講演等
     「CM映像のアルケオロジー」(招待講演)早稲田大学芸術学校第4回ビジュアルリテラシー講座、2006年6月3日
     その他の研究活動
      京都精華大学表現研究機構客員研究員(2005年7月~現在)
      茨城大学人文学部講師(2007年4月~現在)

     福島 勲
     在職期間:2007年4月〜現在
     研究領域:フランス文学・思想
     主要業績(〜2008年度)
      論文
      《 Sacrifice a travers textes : le sens de la pratique litteraire selon Georges Bataille 》,『フランス語フランス文学研究Etudes de langue et litterature francaises』第82号,日本フランス語フランス文学会,白水社,2003年3月,pp. 133-145.
      「供犠と文学:ジョルジュ・バタイユにおける供犠の概念とその実践」(博士論文、2005年9月)
      「ひとりひとりの死の場面で:バタイユの死の概念における個別性」,『死生学研究』第八号,東京大学大学院人文社会系研究科21世紀COE研究拠点形成プログラム「生命の文化・価値をめぐる〈死生学〉の構築」発行, 2006年11月25日, pp. 131-146.
     共同研究
      平成17-19年度科学研究費補助金基礎研究(B)(2)『1880年代の民間レベルにおける日伊芸術交流史の再検討:写真家アドルフォ・ファルサーリとブルボン家エンリコ・バルディ伯爵の随臣アレッサンドロ・ツィレーリ伯爵の日本での活動』(研究代表者:小佐野重利)研究分担者
      日本学術振興会人文・社会科学振興のためのプロジェクト研究事業V‐3「文学・芸術の社会的媒介機能」LAC ワークショップ「共同体を考える」メンバー

    (2)外国人客員教授の活動
     アラン・クリスティ客員教授
     在職期間:2004年10月〜2006年9月
     研究領域:日本民俗学史
     担当講義:文化資源学特殊研究「日本民俗学史:理論と実践」(2005年度)
          文化資源学演習「記憶の空間と物」(2005年度)
          文化資源学演習「記憶の資料論」(2006年度)
          文化資源学特殊研究「戦争と博物館」(2006年度)木下直之共同講義

     ニコル・ルーマニエール
     在職期間:2006年10月〜現在
     研究領域:日本現代工芸史・東洋陶磁器史
     担当講義:文化資源学特殊研究「陶磁器と日本文化 」(2007年度)
               文化資源学演習「日本を収集、展示する」(2007年度)


    3.卒業論文題目等
  2006年度修士論文題目一覧
   文化経営学
    岡本貴久子  記念植樹の文化史的研究『山岳信仰から緑化活動に至る思想と形態の変遷 戦前を対象に』
    <指導教員>渡辺裕
    田尻美和子  異文化の視覚化『「ザ・ファーイースト」の分析を通して』
    <指導教員>木下直之
    長嶋由紀子  文化開発の理念とフランス自治体文化政策の創成期『グルノーブル市デュブドゥ市政時代(1965-83)を中心に』
    <指導教員>小林真理
    小山明日  アート・インスティチュート・オブ・シカゴの社会的役割の問い直し『1935-1945年にかけて』
    <指導教員>小林真理
    中村美帆  自由権的文化権の保障からみる「表現の自由」の課題『小説「石に泳ぐ魚」出版差し止めを事例として』
    <指導教員>小林真理
    佐藤李青  ハイレッド・センターという虚構『直接行動の成立から言説の構築まで』
    <指導教員>木下直之
    坂本里英子  公共の財産をめぐる評価と価値観『1970年代の公立近代美術館におけるコレクション形成について』
    <指導教員>木下直之
    斎藤夏江  文化財保護法の成立過程に関する研究
    <指導教員>木下直之

  2007年度 修士論文題目一覧
   文化経営学
    加藤桂子  新派俳優藤沢浅二郎と映画
    <指導教員>木下直之
    安江(小出)いずみ  国際関係の中の歴史資料政策『アジア歴史資料センターの成立過程について』
    <指導教員>木下直之
    柴田葵  パブリック・アート設置事業における力学『東京都アートワークを事例として』
    <指導教員>木下直之
     河野麻衣子  文化政策のジレンマ:「自由市場主義」と「多様性の保護」『 アオテアロア・ニュージーランドの事例』
    <指導教員>小林真理
    形態資料
    松永しのぶ  いれずみを巡る視線の変容『近世から近代の公と私』
    <指導教員>佐藤健二
    岡村奈津紀  ドイツにおけるオペラ演出の歴史と現在『「演出の時代」を再考する』
    <指導教員>渡辺裕
   文字資料学(文献)
    馬場幸栄  慶應義塾大学図書館所蔵『修練者の鏡』写本『文献学的、古書体学的、古書冊学的調査』
    <指導教員>片山英男
    文字資料学(文書)
    村山いくみ  〈Bible moralisee〉におけるテクストとイメージ『注解テクストと抽象的概念の表現をめぐって』
    <指導教員>月村辰雄
    片多祐子  芹沢けい介と図案『染色家以前の軌跡1985-1929』
    <指導教員>月村辰雄
    野村悠里  近世ルリュール研究『A.M.Padeloupの書物装幀幀と工房継承』
    <指導教員>月村辰雄




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