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アセアン諸国イスラーム研究国際会議(タイ、パタニ市)に参加して

大石 高志
(日本学術振興会・特別研究員)


 さる6月25日から28日にかけてタイ南部の海辺の町パタニにおいて「アセアン地域イスラーム研究国際会議:イスラーム研究の歴史、手法、見通し」(International Seminar on Islamic Studies in the ASEAN Region: History, Approaches and Future Trends) と題される学術会議が開催された。私は、幸運にも、この会議に臨席する機会を得たので、未熟な観察記録の域を出ない報告ではあるが、以下に手短に記させていただく。

 バンコクから飛行機で約1時間半、南部の中核都市ハジャイに、そして、更にそこから車を飛ばすこと1時間少し。パタニは、シャム湾に面するさほど大きくはない町である。この南部地域は、マレー系のムスリムが多数を占めており、タイの中央部地域あるいは仏教文化圏とは、かなり趣きを異にしている。この町のさらに海沿いの地区、マングローブの茂みがすぐのところまで迫る低地部にソンクラ大学パタニキャンパス(Prince of Songkla University, Pattani Campus)があり、ここに設置されているイスラーム学学部(College of Islamic Studies)の主催で、今回この国際会議が開催された。1989年に設置されたこの学部は、「イスラーム学」、「イスラーム教育」、「イスラーム法」と3つの課程をそろえており、かつ、タイでは唯一、正式なイスラーム学の修了認定学位を授与することができるという。

 この国際会議の冒頭で、学部長(Director)は、今回の国際会議の目的を、1:アセアンのムスリムの交流、2:ムスリムと他の宗派の人々との協調、3:ソンクラ大学とそのイスラーム学学部の発展、と宣誓していたが、この3つは、まさに、この町や学部の上記のような特殊性と今回の国際会議開催のあいだの興味深い関連を示していた。

 今回、この会議で報告されたペーパーの題目等の詳細は、すでにイスラーム地域研究の英文ホームページやメールで御承知の方が多いはずなので、ここで改めて繰り返すことはしないが、まず特筆すべきは、その日程の充実ぶりであった。朝8時半から始まり夕刻まで続く全体会、そして2日目には夕食後にも3つのグループに分かれての討議会と、かなりタイトなスケジュールが組まれていた。内容的には、今回の会議の題名からも察せられるように、歴史や人類学、地域研究といったものよりも、むしろ、アセアン地域のムスリムが自身の問題として今後、イスラームをどのように位置づけていくのかという極めて主体的かつ同時代的な内容のものが多かった。このため、自然と、教育問題に報告が集中し、「イスラーム教育」に関する現状の報告や分析、さらには、新たな方向性・方策の提案といった踏み込んだ議論も行われることになった。

 しかし一方で、海外の研究者の報告や議論への積極的な参加が促されており、全体として非常に開かれた会議という印象を与えていた。これは、アセアンにおけるイスラーム、あるいはイスラーム学とは言っても、それはもはや、地理的・理念的にこの地域だけで完結するものではなく、世界的な動きのなかで展開されていることを反映していると言っても良いだろう。また、そもそも、このアセアン地域でそうしたイスラーム教育に携わっている学者や教師のなかには、中東での留学経験者がかなり多く見受けられるし、中東やアフリカ、南アジア出身の研究者さえ含まれている。会議の中でも、こうしたグローバルな視点は、何度か自覚的に強調されていたように思う。こうしたことにも関連して、日本の「イスラーム地域研究プロジェクト」に対しても、現地研究者から関心が向けられたため、幸いにも、プロジェクトの概要について紹介する簡単なスピーチを行う機会を与えられた。この場を借りて謝意を呈したい。浅学無知の身でありながら、上述したような問題に関心を寄せる者として、今回の会議参加は極めて有意義なものとなった。願わくば、せめてキャンパスのすぐ外に広がる海原を一瞥したかったのだが…濃密なスケジュールに感謝しつつ、ひとこと恨み言…。最後に、当地では、トヨタ財団(今回の会議のスポンサー)の本多史朗氏、千葉大学の中村光男氏、東京外国語大学AA研の床呂郁哉氏と御一緒させていただいたのでここに記させていただく。

 

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