ニュース一覧 スケジュール 活動報告一覧 ライブラリ メーリングリスト サイトマップ


「第6回マルチリンガル・コンピューティングに関する国際会議」に参加して
6th International Conference and Exhibition on Multi-lingual Computing

林 佳世子
(東京外国語大学)


 1998年4月17、18日の2日間、ケンブリッジ大学を会場に、ケンブリッジ大学中東研究センター主催、アラブ連合の後援より「第6回マルチリンガル・コンピューティングに関する国際会議、および展示会」が開催された。2年に1度開かれてきたという当会議は、多言語問題(コンピュータ上で英語以外を処理する、あるいは、複数言語を共存させる)の解決という課題のなかで、特に、アラビア語(ないしはアラビア文字、アラブ圏)がかかわる諸問題を討議する場として設定されたようである。技術的なことには素人の筆者が理解しえた限りにおいて会議全体の様子を紹介できればと思う。

 2会場に別れての会議では約50の発表が行われ、同時に関連企業による商品展示が行われた。

 セッションのテーマは次の5つ。

1)情報スーパーハイウエイとマルチリンガル・コンピューティング:国家の発展における今後の役割

2)電子辞書と自動翻訳

3)コンピュータを用いた言語教育

4)マルチリンガル・データベース

5)ハードウエア・ソフトウエア開発

 いずれも、「アラビア語」というタイトルは冠していないが、2、3の例外をのぞいて、実際にはアラビア語やアラブ世界の問題に限定して議論された。常連の出席者の話によると、第1回から回を重ねるごとに扱う範囲が狭まり、当初、東アジアの漢字圏までを視野に入れていたものが徐々にアラビア文字圏に限定され、さらに、ペルシャ語その他の非アラビア語言語関係も参加者が減って第6回にいたっているという。マルチリンガル環境(たとえば、ユニコードをめぐる問題など)をトータルに議論する場として、当初企画されたものの、実際の参加者の傾向にあわせて、問題を特化させてきたようである。このことの功罪をめぐっては、最終セッションでかなり議論が行われた。多言語環境の全体像を議論しえないマイナスの面があることは当然であるが、アラビア語にしぼって実質的・技術的な議論が行えることのメリットは参加者全体に認識されていたようである。

 技術的な問題では、「自動翻訳」ソフト開発競争に関連する研究に議論が集中した。アラビア語をどう解析し、よりよい翻訳(英語、フランス語←→アラビア語)を得るかは、アラビア語言語研究と「ビジネス」の接点となる課題とみえ、研究者も企業も相当に熱がはいっていた。アラビア語・英語の自動翻訳については、文章の種類(用途)を限定すれば(ビジネスレター、コンピュータ関連のマニュアルなど)、使用にたえるものが開発されつつあるようであり、すでに複数、商品化もされており、デモンストレーションが行われた。

 主な関連企業のアドレスは次のとおり:

Cimos  http://www.cimos.com/ e-mail: cimos@artinternet.fr

Diwan Software  http://www.diwan.com/

Future Technology & Information   e-mail: sales@Islamicsoftware.com

AppTek  http://www.apptek.com/

ATA Software  fax +44-181-568-2738

TransCo Solution  e-mail: atasoft@globalnet.co.uk

 マルチリンガル・データベースに関連するものとしては、アラビア語碑文のデータベースや、Ibn Hallikan の人名録のデータベース化、ペルシャ語詩のハイパーテキストCD-ROM など、歴史・文学研究にかかわり、公開されれば研究者共通の財産となりえるデータベースの紹介も目についた。図書館・書誌関係では、大英図書館資料室のアラビア語テキスト入力システムの紹介、アラビア語の新聞雑誌記事のOn-line検索ができるWeb Database の構築などが報告された。この関連で、筆者も東洋文庫が昨年リリースした Multilingual Detabase CD の紹介をExhibition Room で行った。

 しかし、こうした研究者のニーズに特化した発表はむしろ少数派で、多言語環境のうち、ビジネスとなりえる分野に議論が集中したことは事実である。その意味で、マイクロソフト社が中東担当責任者をはじめ複数の関係者を派遣していたのが目立った。(前回はアップル社も参加していたようだが、今回は不参加。)ユニコードの採用で、マイクロソフト社の各種製品は、まがりなりにも多言語環境を実現する程にあるが、本来の意味での多言語の共存やネットワーク上での多言語使用には、依然十分でないことは、周知の事実である。しかし、アジアその他の市場を考えれば、これらが大きなビジネス・チャンスであることは間違いない。近日中には、ネットワーク上の多言語環境の整備などは実現する、という見通しが示された。ウィンドウズ上での開発が、企業・研究者共通の状況だけに、マイクロソフト社の担当者の発言に注目があつまったようである。

 当会議のひとつの特徴は、「情報スーパーハイウェイ整備が社会や政治に与える影響」を扱うセッションがもうけられていることである。この中では、国連の広報担当者の報告が注目された。現在、国連では公用語6言語でのホームページおよびデータ公開を推進中であるというが、実際には中国語とアラビア語は依然、公開されていない。このことが象徴的にしめすように、情報が簡単に流通し共有できる言語の使用者と、情報から遠く離れているしかない言語の使用者の間の不平等は、はななだしいものがある。いわゆる、Information Rich とInformation Poor の問題である。しかし、コンピュータで扱いにくいからといって、文化・伝統の鍵である「文字」をかえるわけにはいかない。扱いにくいのは、開発に投資が行われていないからである。討議では、一見、技術的な問題にみえるマルチリンガル環境の実現が、実は「情報差別」の解消という政治的、社会的効果をもちえることが指摘された。

 アラブ世界にかぎっていうと、情報化整備が全て、政府主導で行われている点にひとつの特徴と問題点があろう。政府の手でネットワーク整備を行うのが唯一の方法とはいえ、それが同時に情報の管理につながるとすれば、使用者は「世界がひとつの網でつながる」ことのメリットの一部しか享受できないことになる。各国が、情報化の整備にいかに努力しているかについての報告(特にエジプト)が行われたが、その問題点については、残念ながら議論は深まらなかった。シリアについては、e-mailのアカウントをとるにも政府の許可がいるというコメントもあった。

 会議では、世界の各地で推進されているアラビア語(文字)を使ったデータベース構築の現状、アラビア語教育用トゥールの開発、自動翻訳の製品発表などが行われたが、それらの情報は常時アップデートされていく性格のものである。情報の公開方法としてはWebSite が適当と思われるが、ICEMCO の組織が活発に、それらの情報集約のセンターの役割を担うことを期待したい。

 会議そのものは、see.you@icemco.2000 を合い言葉に閉会した。会議の運営に努力されたDr. Ahmed Ubaydli に感謝したい。

 なお、Proceedings やパンフレット類は新プロ総括班事務局で閲覧可能です。また、この会議に興味をお持ちの方は、Dr. Ahmed Ubaydliに直接、コンタクトをとられることをお勧めします。(au100@cam.ac.uk)

 

Copyright(C)1997-2002, Project Management Office of Islamic Area Studies, All rights reserved.

 

go to top page