海外出張報告

目的:民衆運動と民主化をめぐる現地調査および現地研究者との交流ーエジプトおよびタイ、インドネシア

出張者:私市正年(上智大学外国語学部教授)、浅見靖仁(一橋大学社会学部助教授)、岩崎えり奈(一橋大学大学院社会学研究科博士課程)

期間:2000年3月9日〜29日

出張地: エジプト、タイ、インドネシア

 

[活動の概要]

エジプト、タイ、インドネシアにおいて、民衆運動と民主化の展望について把握するため、研究機関において意見交換を行なうとともに、関係団体(NGO)を訪問して当事者の状況認識を探ることをめざした。また、民主化の社会経済的背景について少しでも知るため、農村において聞き取り調査を行なった。

 

[活動日程]

(1)エジプト

3/10  カイロ着。

日本学術振興会カイロ事務所を訪問。

3/11 Sudan Studies Centerを訪問し、所長のHayder Ibrahim Ali氏とスーダンの民主化の展望、現在の政治軍事情勢について意見交換。

Ibn Khaldun Center for Development Studiesを訪問し、所長のSaad Eddin IBRAHIM氏と民主化と市民社会、宗教の自由に関し意見交換。

3/12 カイロのイスラーム民衆地区の視察
3/13 Shibin al-Kom近郊(Dia al-Kom)の農業協同組合を訪問。

Hosh Isa近郊(Shimii)の農家で聞き取り調査。

3/14 Nasr Canal沿いのIbrahim Attiya村の農家で聞き取り調査。
3/15 ドゥスークのBurhami教団を訪問、その関係者に聞き取り調査。
3/16 マンスーラ近郊のMushat al-Gharbi村を視察。
3/17 カイロ発

 

(2)タイ

3/18 バンコク着

Hotel Asia付近のイスラム教徒居住区を視察、モスク関係者から聞き取り調査。同地区は、ジム・トンプソンの絹織物工場地区として19世紀中頃に形成された。同地区には、600世帯ほどのイスラム教徒が居住しており、3つのモスクを中心に、コーラン・アラビア語教育、相互扶助活動を活発に行なっている。

3/19 バンコクから北東70キロのOngakarak町南にあるイスラム教徒居住村を訪問。同村のリーダーの話によると、同村は、100年ほど前にインドネシアのアチェから移住してきた人々によって形成された。人口1800人中の90%がイスラム教徒。この地区も、コーラン学級運営と住民同士の相互扶助を行なうため、「パーティー」を頻繁に開き、それを通じてバンコクや近隣のイスラム教徒居住村との連帯を深めている。出稼ぎおよび巡礼、留学を通じての中東とのつながりも観察された。

Ongkarak町北にあるWongsanit Ashramを視察。同NGOでは、社会・宗教を中心にした日本社会の現状について、研修に来ていたミャンマーの僧侶との討論会に出席した。

3/20 バンコク北部農村地区の視察
3/21 タマサート大学政治学部のPatcharee Siroros教授と、新しく導入された公聴会制度など、タイの最近の政治状況について、Anek Laothamatas学部長とは、タイの市民社会、民主化の鍵となる地方自治、分権化について意見交換を行なった。

 

(3)インドネシア

3/22 バンコク発、ジャカルタ着
3/23

バンコク近郊の二つのプサントレン Pondok Pesantren Asshidiqiyah Pondok Pesantren Asshidiqiyah IIを訪問。

3/24 Pesantren al-Masthuriya(スカブミ市近郊のTipar町)を視察し、Hamdun Ahmad校長から情報を収集。
3/25 バンドゥン郊外にあるPondok Pesantren “Darul Falah”を視察。

夕方、スバン市郊外にある農村を視察。

3/26 スンダンカルヤ町近郊のCikantil村を視察。夕方、暴動のあったジャカルタのコタ地区のチャイナ・タウン跡地を視察。
3/27 Kontras(The Comission for Disappearance and Victims of Violence)を訪問し、インドネシアの政治軍事状況、民主化の展望について代表のMunir氏と意見交換。Munir氏は、弁護士であるとともに、Indonesian Legal Aid Foundationの代表の一人でもある。

The Indonesian Society for Pesantren and Community Development (P3M)を訪問し、プサントレンの現状、イスラムと民主化について、Masdar F. Mas’udi氏と意見交換。

3/28 Paramadina財団の所長兼同大学学長のNurcholish Madjid氏と、インドネシアのイスラムの歴史的社会的特性をめぐり意見交換。
3/29 ジャカルタ発、東京着

 

[訪問した研究機関・関連団体]

(1)エジプト

The Sudanese Studies Centre(SSC)

16, Hassan Aflaton St. Ayob Flats 4, 11341 Heliopolis Cairo

tel/fax: (202)4172450, 2428789 mail: ssc@africamail.com

1991年、スーダンに関する研究・広報を行ないつつ、スーダン政府に民主化の圧力を外側からかけることを目的に、1989年のスーダン軍事政権樹立後に、祖国を離れた亡命スーダン人知識人グループによって設立された民間団体。

Ibn Khaldun Center for Development Studies

17 Street 12, Mokattam, P.O.Box13, Mokattam, Cairo tel: (202)5081617

創設者のSaad Eddin Ibrahim氏は、政治社会学の分野で活発な執筆活動を行なっている著名な知識人。このセンターは1988年に氏の活動の一環として、民主化と市民社会、宗教の自由に関する研究・広報活動を促進するために設立された。

 

(2)タイ

Wongsanit Ashram

Ongkarak, Nakhorn Nayok 26120, tel: (66-2) 546-1518 mail: atc@bkk.a-net.net.th

1985年に、住民参加型の開発プロジェクト実施のために設立された。現在の重点課題はコミュニティ・リーダー育成。これは、人権、民主化への取り組みの一環でもある。そのために、国内だけでなくミャンマー、カンボジアなどの近隣諸国におけるのための研修プログラムを、僧侶や学生などに対し行なっている。

Faculty of Political Science, Thammasat University

 Prachan Road, Bangkok 10200

 

(3)インドネシア

Pondok Pesantren Asshidiqiyah

Jl. Surya Sarana 6C, Sunrise Garden, Kedoya, Kebon Jeruk, Jakarta Barat

tel: 5801650, fax: 56411819

Pondok Pesantren Asshiddiqiyah II

,Jl. K.H. Kilin PAP II, Batu Ceper, Tagerang tel: (021) 5512708

Yayasan Al-Masthuriyah

Tipar, Cisaat, Sukabumi tel: (0266) 225888, fax: 216225

Pondok Pesantren “Darul Falah”

Jl. Raya Cihampetas Cililin Kab. Bandung

Kontras(The Comission for Disappearance and Victims of Violence)

Jl.Mendut No.3, Jakarta 10320 tel: 3145940 fax: 390140

http://www.desparicidos/kontras.org mail: kontras@cbn.net.id

Kontrasは、学生運動や労働スト、人権問題に取り組んでいるNGOネットワーク。

Indonesian Legal Aid Foundation

Jl. Diponegoro 74 Jakarta tel: 62-21-3145518,fax: 62-21-330140, mail: ylbhi@ylbhi.org

Indonesian Legal Aid Foundationは、200人の弁護士をかかえるNGOで、土地、労働、人権問題などの分野で活動する組織を法的に支援することを目的にしている。

The Indonesian Society for Pesantren and Community Development (P3M)

Jl. Cililitan Kecil, III/12, Kramatjati, Jakarta 13640 tel/fax: (62-21) 809-1617, 915-1509

1983年に、プサントレンの指導者たちによってプサントレンを通じた草の根レベルの開発をより促進するために設立されたNGO

Yayasan Wakaf Paramadina

(Sekretariat) Pondok Indah, Plaza I Kav. UA20, Jl. Metro Pondok Indah, Jakarta

tel:7501969 fax: 7507174

精神的な拠り所としてのイスラムを、新中間層にもあうように文化として解釈し、研究・出版活動を通じて人々に伝えることを目指して、1980年前後に設立された。

 

 以上、今回の海外調査は、短期間で3つの国をまわるという、日程的にハードなスケジュールであったにもかかわらず、効率よくまわることができ、全体として大変有益な出張であった。これもひとえに現地での協力者諸氏のおかげである。インドネシアでは、現地に留学中の南家三津子氏(Swinburne University of Technology)と、伊藤毅氏(一橋大学大学院)にも大変お世話いただいた。協力者諸氏、ならびに出張の機会を与えていただいた本プロジェクトに感謝申しあげる。

 現地協力者諸氏の厚意に報いつつ、本プロジェクトの成果となるよう、いずれ早い時期に、今回の海外調査でえられた成果をまとめ、発表する予定である。