中 央 ア ジ ア セ ミ ナ ー


イスラーム地域研究・一班合同研究会

実行委員会:小松久男、石田 淳
幹事:グループB
協力:中央アジア・ネットワーク
研究会企画・運営協力:北海道大学スラブ研究センター

「中央アジアの国際関係:歴史と現在」

 「イスラーム地域研究」一班の1998年度の合同研究会が10月31日に北海道大学スラブ 研究センターにて開催されましたのでご報告申し上げます。今回は、研究グループBが幹 事役となり、これに中央アジア・ネットワークが協力した結果、「中央アジアの国際関係: 歴史と現在」というテーマとなりました。今回の研究会の趣旨は、ソ連崩壊後の激変の中 にある中央アジア地域の国際関係を歴史と現在の二つの方向から考察することにありまし た。なお、この研究会の企画と運営には、北海道大学スラブ研究センターの協力を得るこ とができました。また、今回の研究会は、中央アジア・ネットワークの第三回中央アジア 研究セミナーをも兼ねて開かれました。尚、当日の報告と討論は英語で行われました。

日時:1998年10月31日
場所:北海道大学スラブ研究センター大会議室

【プログラム】

開会の辞
竹下 政孝 (総括班、 1班代表、東京大学大学院人文社会系研究科)

第一部:東トルキスタンの国際関係 10:00〜12:00
司会:小松 久男 (1-a班、 東京大学大学院人文社会系研究科)

報告:菅原純(青山学院大学大学院)「 Yarkandのmusafir:動乱期(1857-77)の「国際 関係」の再検討」
川島 真(北海道大学法学部)「新彊省の外交と中華民国北京政府」
討論:新免 康 (3-a班、東京外国語大学AA研)

第二部:近現代中央アジアの国際関係 13:30〜18:00
司会:石田 淳 (1-b班、東京都立大学法学部)

報告:ラフィス・アバゾフ「ソ連解体後の中央アジアにおける協力と安全保障」
討論:宇山 智彦(3班協力者、北海道大学スラブ研究センター)
高橋 和夫(1-b班、放送大学)
清水 学(2-b班、宇都宮大学国際学部)

レセプション

【報告要旨】

第一部:東トルキスタンの国際関係 10:00〜12:00
司会:小松 久男 (1-a班、 東京大学大学院人文社会系研究科)
討論:新免 康 (3-a班、東京外国語大学AA研)

「Yarkandのmusafir:動乱期(1857-77)の「国際関係」の再検討」 菅原 純 (青山学院大学大学院)

 本報告は19世紀後半の動乱期に東トルキスタンの中心都市Yarkandが経験した「地域間 関係」を、Yarkandに到来した外来者(musafir)とYarkand人(Yarkandlik)との関係から 検討するものである。1857年に到来したWali KhanのYarkand包囲において、Yarkand のムスリム諸勢力は果敢な抵抗を示しこれを退けたが、この勝利は清朝の権威と宗教権威 とを巧みに利用したHakim Begのリーダーシップに負うところが大きかった。一方、清 朝勢力を排除した1864年以降の動乱にあってYarkand人は、Tunganiによって擁立され た宗教指導者(Kabul出身)、4次にわたり到来したKuchaのKhwajaたち、そしてYa'q ub Begという3つの外来者の支配を経験した。結局はNiyaz BegをはじめとするBeg層が 一貫して支持したYa'qub Begの覇権によってYarkandが安定を回復した。分析を通じて 都市掌握におけるBeg層の重要性を再確認した。

「新疆省の外交と中華民国北京政府」 川島 真(北海道大学法学部)

 1910年代後半から20年代前半にかけて、新疆省はその利益の確保を目指してロシアやア フガニスタンとの間に外交交渉を行った。当時は、現実の経済関係を反映するなどして、 地方政府による自立的外交が中国各地で見られた。しかし、新疆省も交渉の際に、国家と しての中華民国の存在を否定したり、新疆を独立国家として扱ったりする傾向は見られな かった。それどころか、やはり北京中央政府と連絡を取り合い、中央から許可を得ること によって相手側と交渉を行おうとした。その際には中央が好む言説を文書の中にちりばめ、 税収など現実的な利益は自らのものにすることができた。だが、中央が過度に新疆内部の 利権に介入すると、新疆側は強烈に反発した。両者は、互いに自らの領域を保持しながら、 互いを利用しあう関係にあったのである。

第二部:近現代中央アジアの国際関係
司会:石田 淳 (1-b班、東京都立大学法学部)
討論:宇山 智彦(3班協力者、北海道大学スラブ研究センター)
高橋 和夫(1-b班、放送大学)
清水 学(2-b班、宇都宮大学国際学部)

「スターリン体制下の中央アジア西部における民族間関係
――1920〜30年代のウズベク文学――」
ステファン・デュドワニョン(日本学術振興会外国人特別研究員)

 本報告の目的は、ソビエト時代の中央アジアの文学の分析を通じて、当時の政治史に対す る我々の理解を深めることが可能であるということを示すことにある。1920年から1930 年代にかけてのウズベク文学を読むことで、今日の言葉を用いればエスニック・グループ のアイデンティティーがどのように形成され、いくつかのムスリム同士の間の、あるいは ムスリムとロシア人との間のグループ間の関係がどのように築かれたかということが明ら かになる。このような分析を進めるために、主としてチョルパンの文学作品を 取り上げ、 作品が書かれた政治的文脈を検討する。

「ソ連解体後の中央アジアにおける協力と安全保障」
ラフィス・アバゾフ(国連大学研究員)

 本報告は、中央アジアの諸共和国の対外政策の形成を分析する。殊に、現地の政治エリー トが安全保障の問題をどのように認識していたのかということに着目する。ここで吟味さ れる三つの問題は、特にカザフスタン、キルギスタン、そしてウズベキスタンの政策決定 者にとって非常に重要である。その三つの問題とは、第一に、ソ連解体後の中央アジア諸 国における安全保障問題に関する歴史的遺産と最近の新傾向、第二に、中央アジアのエリ ートによる安全保障問題の認識、そして第三に、最近の新政策とそれが中央アジアの対外 政策に与える影響である。報告において提出される主たる議論は、1997年に中央アジア諸 国において行った調査結果によって裏付けされている。

「旧ソ連中央アジアにおける経済関係の転換の初期段階――制度主義的分析」
岩崎一郎 (一橋大学)

 旧ソ連に属したさまざまな共和国は、社会経済改革のペースや国内の政治的安定性の程度 において多様であったにもかかわらず、同じような経済の停滞を経験しているのはなぜで あろうか。この報告は、ロシアで工業生産を行う企業と中央アジアにおけるそれとの間に 見られる生産財の固定化した取引関係を通じて、ロシアの景気の浮沈が中央アジアの工業 生産にどのような影響を与えるかということを分析する。 分析を通じて、取引費用が高す ぎたがゆえに、1991年におけるソ連の政治的解体によっても、中央アジアの企業は旧ソ連 の外側に新たな契約関係を築くには至っていないということを明らかにする。

*岩崎論文は、IAS Working Paper Seriesで近日中に刊行の予定です。

文責:石田淳(1−b班)

本レポートに関するお問い合わせは、1−b班の石田淳(東京都立大学)まで、電子メイル かファックスにてお送り下さいますようお願い申し上げます。

E-mail: aishida@bcomp.metro-u.ac.jp FAX: 0426-77-2260 (事務室)

〒192-0397八王子市南大沢1―1 東京都立大学法学部 石田 淳



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