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アラブ民族主義とイスラーム復興

その動態的連関に迫る!

report by 小杉 泰

第1回  の報告

1997年9月27日(土)

報告:松本 弘
「アラブ民族主義とイスラーム復興の動態的連関」
会場:東大文学部アネックス(新プロ本部)

 

 9月27日(土)、第1回「論争と争点」研究会(略して「論点研究会」)が開催された。現代イスラーム思想に関わる諸論点を扱うシリーズの最初として、この研究会では、アラブ民族主義とイスラーム復興の連関性について、松本弘氏が報告を行った。

 報告では、67年戦争の敗北を契機にアラブ民族主義が失墜し、そのオールタナティブとしてイスラーム復興が表面化したとの認識から、それが政府による「イスラーム強調政策」とも連動しているという点が、主として、エジプト、アルジェリア、モロッコの事例を取り上げて論及された。さらに、他のアラブ諸国(チュニジア、スーダン、ヨルダン、シリア、イラク、イエメン)にも触れながら、60年代から90年代にいたる動向が検討された。

 なぜ、アラブ民族主義の退潮とイスラーム復興が「反比例」と思われる関係にあるのかについては、エジプト、特に70年代におけるその「構造的変化」に着目した説明がなされた。全体として、非常に啓発的な提起がなされ、さまざまな論点に関して活発な議論が行われた。

 思想的な観点からは、80年代以降のイスラーム復興が体制批判につながってきたという分析をめぐって、それがアラブ民族主義の普遍性およびその限界、イスラーム近代主義の脆弱性と相関して考えられるのかについて、白熱した議論が展開された。また、共和制と君主制の国(たとえばエジプトとモロッコ)では、民族主義とイスラーム復興の連関を分析する上で、根本的な違いがあるかどうかが論じられたが、議論の中で、「イスラームと君主制」も今後の論点として取り上げることが話し合われた。

 また、報告者から、いわゆる学術的研究だけではなく、シンクタンクが行っているイスラーム復興の研究について、その成果が概観され、日本でもさまざまなレベルで研究の蓄積がなされていることが確認された。

  言うまでもなく、本年度は「問題発見の年」と位置づけられているが、その第1回「論点研究会」にふさわしく、いくつも大きな論点が出され、非常に深みのある議論のなされた研究会であった。さらに、第2回、第3回へと、問題提起が続いていく。
 乞うご期待。