研究班1-aグループ


プロジェクト始動!  初の研究会開催

ジャディードはイスラーム再生の夢を見たか?!

報告 松本 弘

第1回  の報告

1997年6月14日(土)
テクスト:小松久男著
『革命の中央アジア:あるジャディードの肖像』(東京大学出版会)
会場:東大文学部アネックス(新プロ本部)

 

6月14日(土)、プロジェクト本部のある東大文学部アネックスにて、第1班aグループによる研究会が開かれました。これはプロジェクト全体のなかで、初めての研究会となります。

1−aでは論点研究会、思想家研究会、地域研究会、書評研究会、原典研究会が適宜開催予定となっておりますが、その第1回として小松久男著『革命の中央アジア−あるジャディードの肖像』をテーマとした書評研究会が、粕谷元氏(1−a研究協力者)を評者として開催されました。研究会では、著者自身をはじめとする1−aメンバーに加え、九州からも駆けつけていただいたほか、班外からも参加を得て、非常に活発な議論が展開されました。

本書は、著者が永年追い続けた研究の結晶であり、特にグラースノスチやソ連解体が同研究の実際に作業に与えた多大な影響を考えると、非常に感慨深い労作と言えます。時代の相を映し出す思想家としてフィトラト(1884?−1938、ブハラ出身、スターリン時代に粛清)に注目し、その生涯をバランスのとれた視点で追うことで、多岐に渡る論点と当時の中央アジアの時代・社会状況の明確な提示に成功しているのが、本書の最大の特長のひとつとなっています。

研究会では、本書の視点や内容につき大胆かつ細かな議論がなされましたが、大きな傾向として、以下の2点にその多くが費やされました。ひとつは思想史という観点から、中央アジアの特殊性の問題につながっていくものであり、もうひとつはソ連編入前後の中央アジアの状況から、「民族とは何か」という一般性の問題につながっていくものでした。前者では、フィトラトという思想家がイスラーム改革主義・汎イスラーム主義から、汎トルコ主義を経て、共産主義やウズベク・ナショナリズムに至る道程が、当時の中央アジアの時代・社会状況との関連から、イスラーム世界における「新たな近代像」の提示として評価されました。また後者では、フィトラトのウズベク文学・文化に関わる活動やソ連編入に伴う中央アジアの民族的境界設定などが、近代以降の民族意識や近現代における民族創造という問題関心から、参加者間の最も熱心な討論対象となりました。

「問題発見の年」である本年度の第1回研究会にふさわしい広がりと深みを持つ議論に、参加者一同、大きな喜びを覚えました。なお、本書の書評については、研究会で評者を務めた粕谷氏により、近くいずれかの機会を得て発表される予定です。