1班bグループ研究会報告


「中央アジアとカフカスの政治・国際関係」


日時:2000年12月2日(土)
場所:東京大学文学部アネックス大会議室





報告1:ジャヌルジャン・ジュヌソヴァ Zhanylzhan Dzhunusova
   (カザフスタン外務省外交アカデミー)
  "Civil Society and State: Challenges for Kazakhstan"

本報告は、カザフスタンの政治体制の歩みを、
(1)1980年代末〜1995年8月:民主政治の諸制度の樹立と市民社会の出現
(2)1995年8月〜1998年秋:大統領の権威の強化と議会外の反対派の活動
(3)1998年秋〜現在:自由化のプロセス
という3段階に分け、それぞれの特徴を論じた。

カザフスタンの「市民社会」は、1980年代末に、民族運動や抑圧の犠牲者の名誉回復 運動といった形で下から現れ、それを追いかける形で議会制などの民主政治機構が出 現した。しかし1995年の「ナザルバエフ憲法」により大統領の権限が強大になり、議 会は実質的な政策決定から疎外された。議会外の反対派も行政府への影響力を持たな かった。カザフスタンでの選挙はOSCEに繰り返し批判され、やがてナザルバエフ大統 領も市民社会なしには済まないことに気づいた。選挙システムが改善され、1999年秋 の議会選挙では諸政党・候補者が活発に活動した。2000年10月の大統領年次教書は、 司法改革、地方行政長の一部の任命制から公選制への切り替え、市民社会諸制度の強 化(NGOの支援など)をうたっている。

討論では、選挙制度の改善(の試み)が行われながらも反対派やマスメディアへの圧 迫が続けられている「第3期」を「自由化(liberalization)」の時期と呼ぶことの 是非、オイル・マネーの使い方、ロシアの地方主義とカザフスタンの地方主義の違 い、国民意識の形成の必要、非カザフ人の地位、といった話題が取り上げられた。



報告2:アルバハン・マゴメドフ Arbakhan Magomedov
    (ロシア、ウリヤノフスク工科大学/北海道大学スラブ研究センター外国人研究員)
   "Russian 'Project of Century': Caspian Oil and the Political
   Incentives of Russian Regional Power Elites along the Pipeline
   Tengiz-Novorossiisk (The Comparative Analysis)"

本報告は、報告者自身が行ったインタビュー、地方政府やカスピ・パイプライン・コ ンソーシアムの文書、地方の新聞などを駆使して、ロシア(沿ヴォルガ、北カフカ ス)の地方政治とカスピ海問題の関係を考察する独創的な研究である。

カザフスタン西部のテンギズ油田とロシアのノヴォロッシースク(黒海沿岸)を結ぶ パイプラインは、2001年半ば開通の予定で工事が進められている。このパイプライン は、アストラハン州、カルムイク共和国、スターヴロポリ地方、クラスノダール地方 という4つのロシア連邦構成主体を通り、それぞれに通過料収入をもたらす。このう ちスターヴロポリでは他の重要な経済的・政治的イシューがあるためパイプラインは それほど関心を呼んでいないが、それ以外の3つの州・共和国・地方の政治と地方間 の関係には、パイプラインの問題が大きな影響をもたらしている。アストラハンのグ ジュヴィン知事、カルムイキヤのイリュムジノフ大統領、クラスノダールのコンドラ チェンコ知事(2000年12月まで)というそれぞれ個性を異にするリーダーたちが、パ イプラインや領内の石油・ガスから得られる利益を最大化すべく、関係諸企業と駆け 引きを行っている。アストラハンとカルムイキヤの間では、境界線に近い土地(石油 が埋蔵され、パイプラインも通る)の領有権をめぐる争いが起きた。クラスノダール ではパイプラインによる汚染を危惧する市民の環境運動が盛んだが、これも地方政府 や隣国政府の駆け引きに利用されている面があると見られる。

討論では、石油輸出利益の分配方法、ロシアの地方制度などについて具体的な議論が 展開された。


本研究会の参加者は少数で、残念であったが、参加者はいずれも中央アジアの現地事 情に通じた人々であったため、討論は非常に盛り上がった。


なお、マゴメドフ氏のペーパーは、全文の日本語訳が『ロシア東欧貿易調査月報』 ロシア東欧貿易会)に掲載される予定である。
文責:宇山智彦

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