新プロ1−c研究会報告要旨      



イスラム家族法研究へのいくつかのアプローチ
--歴史学からの視点--

日時:7月29日(土)14時-18時
場所:東京大学文学部アネックス大会議室
報告者:川本正和

 イスラム家族法はイスラム法シャリーアの重要な一部であるので,シャリーアそのものの法としての特質をまず把握しておかねばならない。

 宗教としてのイスラムは今日われわれが前提とする信教の自由の中の個人的な宗教とは異なり,共同体を形成し,その維持・継続の努力が信者の勤めとされるものである。すなわち共同体規制として定められた神の法に従って生きる人間がイスラム教徒なのである。法とはいってもシャリーアは今日の国民国家の「市民社会」の法とは異なり,イスラム宗教共同体の法なのである(これをかつては戒律とよび,法とは区別した)。

 共同体の根幹を支える家族が重要視され,その維持のために多くの規定が定められているのは当然である。またそれらがいわゆる「公序良俗」として通用していたため,国民国家の民法の中に取り入られてもいる。しかし,近代の法典化された家族法を,イスラム家族法としてとらえることは危険である。法の根本的なあり方が異なるからである。

 今後は,法規定の字面を追うことではなく,現実にどのように法規定が社会に適用されたか,またされているかを見ていくことが重要である。現実に生きた法の姿をみることにより,知られていないイスラム法の特徴が抽出することができるかもしれないし,法の適用の仕方はその社会の特質を浮き彫りするであろう。
 当発表では,いくつかのすでにおこなわれている方法を紹介した。

後記:参加者からは幾つかの質問があり,質疑応答が行われたが,現代のイスラーム法を考える上で常に問題になるのは,信徒のみを拘束する宗教法としてのイスラーム法と,国民を単一の法によって支配しようとする近代国家のあり方の関係である。理論的には,今日あるのは,イスラーム法を参照した国家の制定法だけで,イスラーム法というものは適用を見ないのだというのが,イスラーム圏における主流の考え方のように見える。果たしてそのような理解でよいのか,もっと別の視点を持ち込むべきなのか,いささか考えをめぐらすひと時であった。
(柳橋)


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