発表3 「HTMLによる学術論文の作法」 保坂修司

 最近、ホームページで自分の書いたものを紹介する人が増えてきました。そこで、我々に関係してくる問題としては、「インターネット上で発表された学術論文は有効か?」ということです。「オリジナルは何か?」ということも問題になってくるでしょう。すでに何らかの印刷媒体で発表したものをインターネット上に載せる場合は、論文の写しとして、画像あるいはPDFファイル(Portable Document Format. 印刷した文書を、そのままの状態でディスプレイ上に表現するためのデータ形式)の形で提供すればよいかと思いますが、ここでの趣旨は「オリジナルがデジタル」である場合について議論することです。紙に印刷するのは、あくまで副次的なものであるという立場です。オンラインで紹介することの利点を最大限に生かすには、どうしたらいいかという観点から考えてみたいと思います。


<半永久的に残すためには>
 インターネット上に学術論文を発表する際に、ぜひ考えなければならない問題があります。それは「いかに残すか」ということです。たとえば、私が個人で契約しているインターネット・サービス・プロバイダー(ISP)のホームページ・スペースに論文を発表したとしましょう。私が死んでISPとの契約が終了すると、当然ホームページも消えてしまいます。そうなれば、この論文を他人が引用することは不可能になります。作品を、もちろんURLも変えずに残すにはどうすればよいのか? これは個人だけでなく、出版社や学術機関にも当てはまる問題です。

 対処の方法としては、今のところは複数の、無料でホームページを永久に残すことを保証してくれるミラーサイト(他のサイトに設置したホームページのコピー)を用意するということになります。それから最終的には、情けない話ですが、紙でも残しておくことです。しかし個人の管理を離れた段階でオンラインの論文を残すのは、実際にはかなり難しいと言わざるをえません。

 ここには「そもそも論文とは何か?」といった哲学的な問題も絡んできますから、とりあえず具体的な記述上の問題に移りたいと思います。

<基本的エチケット>
 他人に見せることが前提となっているわけですから、読者の使っているOSやブラウザが何かということを考慮に入れる必要があります。たとえばOSの場合、最低でもウインドウズ、マック、UNIXの3つの場合を想定する必要があります。

 それから、画像や音声、データベースの取りいれによって、インターネット上での表現は飛躍的に高まるのですが、そのことは同時に、データ量が膨大になってしまうという問題をはらんでいます。1個1個のファイルが大きくなると、特に電話線経由のダイアルアップ接続利用者にとっては負担が難しくなりますから、この点にも配慮しなくてはなりません。

 たとえば私自身のメインの体制は、OSはWindows 2000のベータ・バージョンとMicrosoft Office 2000で、ブラウザはInternet Explorer (IE) 5.0です。HTMLで書く場合、OSやブラウザのバージョンまで考慮しなければなりません。IE 5.0ではOKでも、IE 4.0では文字化けするかもしれません。またIEでは、簡単にできるのに、ネットスケープ・ナビゲータ(NN)ではできないというものもあります。逆にではNNでは表現できるのに、IEではできないというものもあります(たとえば前者の例はルビ、後者の例では段組などが有名です)。読者のシステムを考慮するとは、そういうことです。例に沿っていえば、たとえ機能として便利でも、ルビをつかったり、段組をつかったりすべきではないということです。

 今ご覧にいれているのは、ペルシャ湾の音楽を紹介するページで音声データを入れてあります。見た目はまったく同じWAVファイル(音声ファイル形式)ですが、参考のため、録音時の音質を変えて2つ作ってみました。こちらの方が音質の低い、つまり音のよくないバージョンですが、実はいい音のものよりこちらの方がオンラインではスムーズに音が出ます。画像でもそうですが、常にデータを軽めにしてやる工夫が必要です。

 ここまでの要点をまとめましょう。まず情報の発信側、作り手の方は、OSやブラウザの機能をある程度把握しておく必要があります。そしてデータの軽量化をこころがけ、最先端の機能はなるべく用いないようにするということです。誰でもが簡単に作れるようなシステムのもとでやれば、古いOSを使っている人でも閲覧可能になります。ただし、だからといって、たとえばアラビア語を全部画像ファイルで表示しては、今度はスピードが犠牲になってしまいます。なにごとも兼ね合いでしょう。

HTMLによる論文作成>
 ここでは、HTML4.0、JavaScript 1.2、そしてCSS(カスケイディング・スタイル・シート)1を中心に、Microsoft FrontPage 2000で作成するという設定です。もちろん他のホームページ作成ソフトでつくっても、エディタでつくってもかまいません。ブラウザはIE5.0か、NN 4.6です。

 CSSというのは、HTMLのタグによるレイアウトの貧弱さを補うための仕様です。これを使うと、ずいぶん違いますので、ぜひ試してみてください。たとえば、HTMLの標準では、文字列にリンクをはると、その文字列が青くなり、またその下に下線がひかれます。少なければこれで全然問題はないのですが、リンクの数が多くなると、とくに下線が鬱陶しく感じます。これをCSSで指定すれば、たとえば、リンクの文字列は青、カーソルがきたら赤くし、訪問済みのリンクは黒い文字列にするとことが簡単にできます。
 基本的にはレイアウトの問題ですので、いろいろ試してみて、読みやすいかたちを模索してみればいいと思います。

 全体の構成としては、2つの考え方があります。1つは論文全部をまとめて、1つのHTMLファイルに入れてしまうということです。論文全体をプリントアウトするのを前提にするなら、こちらの方が都合がいいでしょう。しかし、特定のページだけを印刷するのは難しくなります。またこの場合、1つのファイルに全体を入れてしまうため、長い論文ではファイルの大きさがかなりのものになってしまう可能性があります。ダウンロードも大変でしょう。もう1つの方法は、章や節ごとに分割するというものです。こちらは論文全体の印刷には不便ですが、コンピュータの画面上で「読む」ことを前提にすれば、むしろ一般的といえるでしょう。ここでは後者について考えてみたいと思います。

 サンプルとしてお見せしているのは「クウェートの歴史」という論文です。これはA4で約30枚相当のものを1つのファイルにまとめてあります。表紙の目次部分から、それぞれの項目へジャンプすることもできますが、ご覧のようにだらだらと長く続きます。

 次は、表紙、目次、本文に分けたものです。全体のレイアウトは、あらかじめテンプレートを用意して、統一してあります。また各ページにリンクをはって、どこからでも移動ができるようにしてあります。ほんとうはCSSを使えば、もっと見栄えのいいページができたのですが、最初にこれを作ったときには、そこまで頭が回りませんでした。そこでページのレイアウトには、HTMLの表機能を使っています。

 表は横幅600ピクセル、線幅0に設定してありますが、これはA4で印刷した場合にも、ディスプレーで見たときも、読みやすい量になります。そうしないと全画面表示した場合に、一行が長くなりすぎて、読みにくくなってしまいます。ブックマークやリンクをいろんな所に貼って、移動を自由にできるようにしておくことも大切です。また著者名のところにmailtoの機能をつけておけば、読んだ人から意見を送ってもらえます。

 さて更新もまた大きな問題です。インターネットの、いつでも簡単に変更できるという利点が、学術論文においては困った問題を引き起こします。勝手に内容を変えてもらっては、引用ができないからです。ではロックして「修正を施しません」とすればいいかというと、それではオンラインにした意味が薄れてしまう。これは「学術論文とは何か」という非常に大きな問題とも直接関連してきます。変更する場合、第1版、第2版と日付を示し、厳密に言えば修正の履歴を全部残す必要があるのですが、見やすさとの兼ね合いをどうするか。いまだ個々人のレベルでの試行錯誤の段階です。

 さて本文の作成ですが、現在ではHP作成用のソフトを使えば、実際にはHTMLのタグを自分で入力する必要はありません。ソフトの方で、自動的に処理してくれます(図参照。次回作成します)。

 JavaScriptには「History Back」という機能があり、これで直前の履歴(直前にいたページ)に戻ることができます。これはなかなか便利です。

<註のつけかた・多言語・特殊フォント>
 註のつけかたにもいろいろな方法があります。私自身は、章ごとの註を註コーナーとして1カ所にまとめ、それぞれの註をクリックするとすべてそこへ飛ぶようにしています。註の数が多くなければ、これで大丈夫です。しかし註が大量にある場合、章末に註をまとめるだけでは、読者には使い勝手の悪いものとなります。本文の註の箇所と註そのものを、1つ1つ対応させなければなりません。これは、HTMLのnameタグで1つずつ対応させるのが一般的です。さらに、画面の横に註が出るようにしたり、新しい註専門のウィンドーを開くようにする方法もあります。

 Windows 2000とWord 2000の組み合わせならば、多言語への対応もさほど困らなくなりました。この組合せでふつうに論文を書いて、脚注を入れ、そのまま保存するときにHTML形式で保存すれば、お手軽な多言語ウェブ・ページがいとも簡単にできてしまいます。何も考えたくないという人には一番お勧めの方法です。ちなみに、私は9月にWindows 2000を導入しましたが、OSそのものが安定しているという印象をもっています。IE5.0は機能的にはアラビア語に対応しているので、きれいなフォントをオンライン上に表示することができます。しかし実は、数字はまだアラビア文字では表示できません。

 さてこれは、先ほど赤堀さんも紹介されたユニタイプ社のテームズというフォントです。このような特殊フォントの場合、画面上で文字化けしてしまいます。最近のブラウザには、ウェブ上からさまざまなフォントをダウンロードする機能が装備されているらしいのですが、私が試した限りでは1度もうまくいっていません(笑)。この方面は、今後改良されていくことを期待しています。hやtといった文字の上や下に点をつけるといった作業が簡単にできるようになる可能性があります。なお下に点のついたhやtやsを表記するにはフォントで対応するやりかたのほか、ユニコードを利用した文字で対応させるやりかたもあります。また今話題のXMLを使えば、こうした転写文字を含め、オンラインの多言語データベースを比較的簡単につくることができます。

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