デジタル情報化時代の研究作法


「イスラーム地域研究」第1班と第6班の合同研究会が、イスラーム世界研究懇話会の第4回をも兼ねて、昨年11月に京都大学で開催されました。21世紀の情報システムの構築について、さまざまな角度から展開された議論をお届けします。(小杉泰・子島進)

(なお本稿は、「地域研究スペクトラム」第4号からの転載です)

日時:1999年11月6日(土)
会場:京都大学大学院 アジア・アフリカ地域研究研究科 連環地域論講座 講義室

司会 小杉泰(京都大学大学院)

発表1 「窓の技―Windows環境での論文作成効率向上をめざして―」
赤堀雅幸(上智大学)

発表2 「Macintosh多言語環境下の研究技法」
林佳世子(東京外国語大学)


発表3 「HTMLによる学術論文の技法」
保坂修司(中東調査会)


討 論


はじめに

小杉 みなさんようこそお出でくださいました。今日の「デジタル情報化時代の研究作法」は、通称「新プロ」の第1班と第6班の合同研究会として企画されました。なお関西で行なっているイスラーム世界研究懇話会の第4回ともなっています。

 1班は「イスラームの思想と政治」、6班は「イスラーム関係史料の収集と研究」をそれぞれテーマとして、ふだんは別々に活動を進めています。しかし今日は新プロの掲げる大きな課題について、共同で議論してみたいと思っています。新プロの正式名称「現代イスラーム世界の動態的研究−イスラーム世界理解のための情報システムの構築と情報の蓄積−」にもあるように、情報システムの構築について考えようというわけです。

 各班で個別に行なわれている研究の成果をいかに蓄積していくのか、その手立てそのものを考える。あるいは今後長く使える仕組みとしてのネットワークの形成をいかに行なうか、そういった大きな問題を見据えながら、具体的に論じていきたいというのが趣旨です。

<パソコン以前のこと>
 まず取っ掛かりとして、私自身のコンピュータとのつきあいについてお話させていただきます。80年代後半のことですが、その頃には学生さんがパソコンで論文を書くことが普通になっていました。それでしばしば「宿題やったんですけど、ファイルが無くなっちゃって」とか、「セーブしたはずなんですけど…」という―今思えば、半分は苦し紛れの嘘かもしれませんが―言い訳を聞くようになりました。

 私自身はワープロ専用機でものを書いていて、そんなトラブルはほとんどなかったものですから、一体何が起こっているのかよくわからなかった。しかし学生は「修論の第3章、古いバージョンしか残っていないんです」とやるもんですから、こっちも真剣に取り組まなければ、埒があかないと気づいたわけです。

 それまで私がワープロ専用機で取り組んでいたのが、アラビア語と日本語を混ぜることでした。マルチリンガルなどまだまだ遠い時代の話です。日本語ワープロに外字としてアラビア文字を苦労して入れていたものでした。御存知のようにアラビア語は右から左へと進みますから、外字も逆に打たなければなりません。つまり出来あがった文章を想定しながら、語末から逆に打っていく。外字はドットを打って作るんですが、最初は16×16ドットで、それから24、36、48、64とバージョンを更新していきました。64ドットともなるとかなり見栄えのするものができます。これは10年前に外字で作ったアラビア語の教科書です(図を、次回更新の際に付け加えます)。

 アラビア文字の数は知れていますが、日本語ワープロには半角と全角しかないので、字と字の間隔をきれいに作るのが難しい。間隔を整えるために、およそ130の文字を作らなければならず、結局これに400時間くらいかかっています。そういう気の遠くなるような作業を、私は80年代を通じて延々とやっていました(笑)。

 もうそろそろかなわんなあと思っていた頃に、マッキントッシュがマルチリンガル化しました。これに先ほどの学生指導の問題もあって、マックを始めたわけです。その後、前任校でのインターネット導入の際にウインドウズも使い出しました。以降は個人的にも両方使っています。しかしマックとウインドウズの併用は結構問題が多い。今日はそのへんも論じていただきたいと思っています。 


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