日本では先進的地方自治体において1970年代から文化行政への取り組みが見られ、その活動の中では地方自治体としての独自性を志向する新しい試みが見られた。しかしながら、1980年代以降は、地方自治の名に反して、右にならえの全国画一的な文化環境の整備という状況を生み出した。日本経済の悪化による地方自治体財政への影響は、文化環境整備の時に金科玉条のように唱えられた「モノの豊かさから心の豊かさへ」という文句を忘れたかのように、文化予算の削減をもたらした。
それに歯止めをかけるかのように制定された2001年の文化芸術振興基本法であるが、芸術振興政策の必要が認識されながらも、施設整備をほぼ終えた地方自治体において、具体的にどのように芸術振興政策を行うべきかの政策目標や目的が明確ではない。さらに規制緩和、民営化は近年の行政を取り巻く大きな潮流であり、その中でこれまでの公立文化施設のあり方も過渡期を迎えているといえる。
本研究は、これまでの日本における文化政策(その中でもとくに芸術文化政策)を人文科学、社会科学両面から捉え返した上で、文化政策研究の今後の発展可能性を探る。さらに、その研究の成果を現実の文化政策に反映させることができるよう、研究と文化政策実践の場の積極的な連携を図る。
これまでの芸術文化政策は、国家、あるいは地方政府の必要から行われてきたものであったという側面が色濃かったと考えられる。それは国家学、政治学、政策科学、法学等の社会科学的視点からの一方的な政策手法であったといえる。しかしながら、21世紀における政策、それを具体的に実現する文化施設においては、別の新しい理念や運営方法が求められてきている。多様な人文科学的視点からこれまでの文化政策のあり方を問い直すことにより、新たな知見を提示できるものと考える。
具体的には以下の視点から研究を行う。
共同研究者の専門分野が異なることから、学際的な研究になるため、共通の知識基盤を築く作業が必要になってくる。そのために、毎回の研究会においては十分な時間をかけて国家や都市における課題を抽出し、それを芸術文化で解決しようとする事例についての認識を共有するとともに、その妥当性を検討する。また、適宜、各分野の研究に必要だと思われる人を研究会に招いた上で、インタビューやレクチャーを依頼する。
さらに、若手研究者、博士課程の学生に参加を呼びかけ、共同調査を行うこととし、研究発表の場を設けるだけでなく、研究成果を芸術文化事業としてプロデュースする試みも実践したい。
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