では,多感覚情報が統合されることによって起こる錯覚とは,どんなものなのでしょうか?
まず下の動画を再生しながら,次の質問に答えてみてください。
注)音声にはホワイトノイズが乗せてあります。再生音量は大きすぎないよう,気をつけて下さい!!
何と言っていますか?
分かりましたか?
さて,正解は・・・
/pa-pa-pa/
と言っていました。
ノイズのおかげで少し聞きにくかったかもしれませんが,多くの方はきちんと聞き取れたと思います。
では次に,こちらの動画を再生しながら,同じ2つの質問に答えて下さい。
何と言っていますか?
さて,どんな回答になりましたか?
/ta-ta-ta/または/ka-ka-ka/などと聞こえた方が多かったのではないでしょうか。
ところが正解は・・・
/pa-pa-pa/
さきほどと同じです。
実は上の2つの動画,どちらも,出力されている音声は全く同じものでした。
ただ,動画Aは見ているものが単なる「+」マークであるのに対し,
動画Bでは/ka-ka-ka/と発音している人の顔が提示されており,
これによって聞こえが大きく変わってきます。
これは声(音)の聞こえ方に関する錯覚,「McGurk効果」によるものです。
単なる+マークを見つめている時には正しく/pa/と聞こえる音声が,/ka/と喋っている人の顔を見ながら聞いた場合には
/ta/のような異なる音に聞こえてしまうのです。
また,実験室のモニタにこのような動画を提示しながら「どこから声が聞こえますか?」という風に尋ねると,多くの人は実際の音源位置
(スピーカ等)よりもモニタに近い位置を答えてしまうことが知られています。
これは声(音)のする位置に関する錯覚,「腹話術効果」によるものです。
McGurk(マガーク)効果
私たちが人の話を聞くとき,実は耳で音声を聞き取るだけでなく,顔の表情や口の動きといった視覚情報も
多分に用いています。
例えば周囲の雑音が大きくて音声が聞こえづらい時,口の動きを追うことで聞き取りやすくなったりします。
ここで,発音の情報が視聴覚間で矛盾するような状況を人工的に作り出すと,どんな事が起こるでしょうか?
McGurk & McDonald (1976)の研究では,/pa-pa/と発音している人の声を聞かせながら,/ka-ka/と発音している
顔を実験参加者に見せたところほとんどの人は/ta-ta/という音が聞こえたと報告しました。
/ka/のように口を開いた状態からは/pa/という音を発音することはできないため,視覚情報と矛盾しないよう
聴覚的な錯覚が起こったと考えられます。
この現象は「McGurk(マガーク)効果」と呼ばれ,視覚情報が音声知覚に影響を与える例として知られています。
腹話術効果
同じ物事から得られる複数感覚の情報のうち,もっとも「確からしい」情報が優先され,その他の感覚情報を補っていると言われています。
※飛行機の飛ぶ音だけが聞こえてきても,それがどの方向から聞こえてくるのかはっきりしませんが上空の飛行機を目で確認することができれば,そこが音源なのだと分かります。
例えば物の位置を判断する際には,空間の知覚に最も優れた視覚が,聴覚など他の感覚に優先します。
ここで,位置情報が視聴覚間で矛盾するような状況を人工的に作り出すと,どんな事が起こるでしょうか?
もっとも馴染みやすい例は,喋っている口元を隠しながら人形の口を動かす「腹話術」です。
この時,本当の音源(=声が出ている場所)は腹話術師の口元であるにもかかわらず,
音は人形の口あたりから出てくるように聞こえます。つまり,音源位置を錯覚してしまうのです。
このような現象は「腹話術効果」と呼ばれ,視覚情報が音源定位に影響を与える例として知られています
(Bertelson & Aschersleben, 1998; Jack & Thurlow, 1973)。
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