西アジア史・中央アジア史での卒業論文の書き方



I 西アジア史(文責:大塚修、2017年3月31日)


1.卒論執筆の準備


2.先行研究を探す方法

 西アジア史に関する専門書・研究論文を検索するためには、以下に挙げる文献やサイトが特に有用です。自分の関心に近い研究論文を見つけ、一つ一つ読んでいきましょう。そこで参照されている史料や研究に芋づる式にあたっていくことで、世界が広がっていくはずです。


3.史料を探す方法

 史料を見つけるためには、専門書や研究論文で参照されているものから確認していくのが近道ですが、それだけでは十分ではありません。研究テーマにかかわらない史料は参照されていないですし、その後、新しい史料が出版されている可能性もあります。西アジア史に関する史料の情報を検索するためには、以下に挙げる文献が特に有用です。

(1) 全般

(2) アラビア語史料

(3) ペルシア語史料

(4) トルコ語史料


4.先行研究・史料の入手方法

 関連する文献を見つけたら、その文献を入手し目を通す必要があります。ただし、全ての文献が学内(文学部図書館や東洋文化研究所付属図書館など)に所蔵されているわけではありません。その場合は、所蔵されている他機関の図書館に赴くか、文献やコピーを取り寄せる必要があります(国内で所蔵が確認できない場合は海外から取り寄せることになります)。場合によっては時間がかかりますので、文献収集は早めに行うのが無難です。東京大学の近くには、東洋学研究の専門図書館である東洋文庫があります。アラビア語、ペルシア語、トルコ語文献の蔵書が充実していますので、そこで見つかる場合も多いです。また近年、世界各国の図書館が設けるようになったデジタルライブラリーで、必要な文献をダウンロードできる場合もあります。また、Internet Archive(https://archive.org/index.php)のようなサイトも有用です。海外の図書館で調査を行うという手もありますが、短い滞在では有益な成果が得られるとは限りません。


5.事典・工具書類

 西アジア史で卒論を書くために知っておくとよい事典・工具書類を以下に挙げます。必要に応じて利用するとよいでしょう。

(1) 百科事典

(2) 地名事典

(3) ムスリム諸王朝一覧

(4) 西暦・ヒジュラ暦換算ツール


6.学会

 必ずしも入会する必要はありませんが、学会や講演会は情報を収集し人脈を築く重要な機会です。学会誌も入念にチェックするようにしてください。

*以下に挙げる学会誌にも西アジア関連の論文が多く掲載されます。



II 中央アジア史(文責:植田暁、2017年3月31日)


 このメモは,中央アジア史で卒論を書く東洋史の学部生のための覚書です。
 作成者は,ソ連領中央アジアの十九世紀後半から二〇世紀前半を専門としているため,紹介内容が偏っていることをお断りするとともにお詫びします。


 標準的な卒論作成の手順

 ① 参考文献を参照しつつ,概説書類を通読し,西アジア史・中央アジア史でなにが問題になっているかを把握する。
 ② 研究論文や専門書に取り組み,自身の具体的に取り組みたいテーマを絞り込む。
 ③ ①,②と平行して,研究に必要な言語の訓練を行なう。
 ④ 一次史料の読解,分析に取り組む。
 ⑤ 研究史における自分の議論の位置づけに特に留意して、論文を執筆する。


 基本概説書

 小松久男他編『中央ユーラシア史』山川出版社,2000年
 宇山智彦編著『中央アジアを知るための60章 第二版』明石書店,2010年
 宇山智彦編著『カザフスタンを知るための60章』明石書店,2015年
 V.V. バルトリド『トルキスタン文化史』平凡社,2011年

 東京外国語大学「中央アジア地域研究のための基本文献」(2013年)も参照。
 http://www.tufs.ac.jp/library/guide/biblio/chiikikenkyu/bib_central-asia.pdf


 基本参考文献

 小松久男他編『中央ユーラシアを知る事典』平凡社,2005年
 小杉泰,林佳世子,東長靖編『イスラーム世界研究マニュアル』名古屋大学出版会,2008年
 水島司,加藤博, 久保亨, 島田竜登編『アジア経済史研究入門』名古屋大学出版会,2015年

*中央アジア史の研究入門書が、近々刊行される予定とのことである(2017年3月)。


 研究論文,専門書の探し方

 A) 上記の文献から芋づる式に探す。
 B) 『史学雑誌 回顧と展望』の,特に「内陸アジア史」,「中国史」,「ロシア史」,「西アジア史」を最低10年分チェックし,自分の研究関心に関わる文献をリストアップする。
 C) CiNii,JSTAGEなどで検索をかける。


 『トルキスタン集成』

 東京大学、東洋文庫を初めとする国内の諸機関にも、多くの一次史料や編纂出版された史料集が所蔵されているので、それらも把握しておくと良い。特に、帝政期の中央アジアについては、『トルキスタン集成』という一大コレクションを京都大学、東大東洋史が所蔵している。京都大学による検索システムは極めて有用である。

 http://app.cias.kyoto-u.ac.jp/turkestan/


 語学

 旧ソ連領中央アジア(特に近現代史)を扱う場合は,ロシア語は必須。
 他に対象とする時期と地域によっては,ペルシア語,アラビア語などが必要となる。これらの語学は東大内で授業やゼミを受講できるでしょう。

 ウズベク語,タジク語,カザフ語などの文法書,辞書類も東洋史学研究室に所蔵されている。これらの現地語の講義は,東京外国語大学において開講されている。

 また,二〇世紀前半までの中央アジアでは,アラビア文字で書かれたテュルク語も広く使われ,新聞や雑誌なども刊行された。このような史料を利用するには,実際に専門の研究者に教えを請うことが有効であろう。その基礎として,チャガタイ語,オスマン語の知識は極めて有用である。

 勝田茂『オスマン語文法読本』大学書林,2002年
 Janos Eckmann, Chagatay Manual, Research and Studies in Uralic and Altaic Languages, Routledge, 1997


 学会

 学会に参加することも最新の研究に関する情報を収集し,専門家と交流するために有効な手段です。東大で毎年開催される史学会(11月)に加えて,以下の学会が主に中央アジア史に関係しています。それぞれの学会誌には関係の深い論文や書評,書籍紹介が掲載されるので,チェックするべきです。

 内陸アジア史学会,URL http://nairikuajia.sakura.ne.jp/SIAS/
 学会誌『内陸アジア史研究』

 日本中央アジア学会,URL http://www.jacas.jp/
 学会誌『日本中央アジア学会報』

 『内陸アジア史研究』末尾の学会情報に,その他の関連学会,研究プロジェクトに関する情報が纏められているので,必要があれば参照のこと。

 英字専門誌としては,研究室で講読している Central Asian Surveyが基本。


 現地の公文書館,図書館

 旧ソ連諸国では,公文書館が整備され,多くの歴史史料が所蔵され,研究者が利用できる。
 ただし、公文書館所蔵の史料は膨大な量であり、限られた調査期間で必要な史料に辿り着けるとは限らない。卒業論文執筆に当たって、現地での公文書館調査を試みるかは指導教員の先生と十分に相談した上で、決定すると良いだろう。

 現地公文書館の利用に当たっては,国ごとに利用方法が異なり,事情も頻繁に変わるために,直近に調査を行なった研究者に事情を聞くことが最良である。カザフスタン,クルグズスタン,ウズベキスタンの概要については以下の記事がある。

 野田仁「学界動向 カザフスタン中央文書館所蔵史料と中央アジア史研究の動向」『イスラム世界』64号, 67-78頁, 2005年
 秋山徹「クルグズスタン文書館作業記」『日本中央アジア学会報』 2号,19-25頁,2006年
 島田志津夫「学会動向 ウズベキスタンの公文書館事情」『イスラム世界』61号,83-92頁,2003年


 最近の情報

※東京大学からの紹介状は,指導教員の先生と相談しながら,自身でロシア語などで文面を作成し,日本語の訳文を添えて,大学事務に提出し,学長印を貰うという手続きを踏む(数日から数週間を要す)。紹介状を印刷するために、東大のヘッドレターつきの便箋を事務から分けて頂けるとのことである。

 各地の国立図書館などにも,史料は所蔵されているので,調べてみる価値はある。一般に,公文書館よりはアクセスが容易である。パスポートと所属機関からの紹介状を用意すれば良いだろう。


 その他

 東洋史研究室の中央アジア関連文献は、所蔵番号「G」の項に相当する。Gの書架のタイトルを端からチェックすることでも、どのような研究や史料集が出版されているのかを概観できるだろう。



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