『西洋世界の歴史』(山川出版社、1999)について 
Q&A

2000.1.29 改訂


【「掲示板」でおこなわれた討論で、このページに関連する部分を再録します:近藤】

  A:小田中直樹   Thank You Mr. DEN for Your Comment in <Q & A>
               2000/01/05 (水) 16:51

               『西洋世界の歴史』第4章を担当した小田中直樹です。「Q&A」のところで、拙文に
               対する伝さんのご指摘を拝見しました。ご覧くださるかどうかわかりませんが、取り
               合えず簡単なご返事まで。

               >第4章は、自由主義とか、発展主義といったキーワードに歴史を当てはめてい
               て、
               >高校の世界史のテキストになることを避けている点が良かったです。もちろん、そ
               >の弊害もあるでしょうが…。

               概説を書くのは初めてでしたが、そもそも概説とは何かがわからず、苦労しました。
               結局いくつかテーマを決めて史実を当てはめるという方法を採用しましたが、この
               場合には、どのようなテーマを選択するかが重要になります。色々と考えてみました
               が、どうも「非西洋世界」との接触に関わるテーマが不十分だったようで、情けない
               限りです。その他至らない点も多々あると思いますが、今後の参考とさせていただ
               きたいので、「弊害」についてさらにご説明いただけると嬉しいです。

               ちなみにこの点は、「どのような読者を想定すればよいか」という問題に関わってき
               ます。第4章は時系列的な叙述を断念したわけですが、そうすると、この時期の歴
               史についてある程度の知識を持ち、また(出来れば)史学史も知っている読者を想
               定せざるをえなくなります。しかし概説としてそれでよいのか、よくわかりません。そ
               の点、たとえば第3章の近藤さんや深沢さんに対しては、(その所説には異論もあり
               ますが)豊富な内容を歴史叙述の中に「溶かし込む」筆力に敬服しています。

               >それとこの章は、経済思想史か学史の先生が書かれたのではないですか?
               >ここの章は、経済史のテキストの近代の部としても使えるように思います。

               ご指摘いただいた通り、第4章は古典的な経済史の枠組によりかかってしまったよ
               うです。むろんそれはそれで功罪があるわけですが、第4章からは、たとえば第3章
               と比較して、「人間」の姿があまりみえないような印象を、我ながら受けました。これ
               は「罪」のほうですね。

               改めて、ご指摘に感謝します。

R:伝     戦争と講和
       2000/01/06 (木) 15:45

               HP見せていただきました。
               わたくしは「謎の読者」ということにしておいてください。

               … ふと、頭に浮かんだんですが、西欧とそれ以外の世界の「戦争と講和」
               についての比較研究をすると、主権国家システムというものの個性が
               明確になるのではないでしょうか? 誰かやってるでしょうけれど …。

A:近藤和彦  戦争と講和
       2000/01/06 (木) 16:07

               > … 西欧とそれ以外の世界の「戦争と講和」についての比較研究をすると、
               > 主権国家システムというものの個性が明確になるのではないでしょうか?

                まさしく国際法の大沼保昭さんがやっておられます。
               「フーゴー・グロティウスにおける戦争、平和、正義」という副題をもった大著
               『戦争と平和の法』(東信堂および OUP)の編者でもあり、また現在は
               「国際公共性と文化帝国主義」という研究会を主宰しておられます。
               ぼくもときどきその会の末席を汚しています。 



Q:伝
 【前略】・・・『西洋世界の歴史』読了しました。第2章の終わりから
第3章に続く「主権国家」についての説明が面白かったです。同僚の先生と
このテーマが話題になって、旧ソ連と東欧が崩壊したのは、西側の
「主権国家システム」でなく、「帝国システム」だったからだろうか、
といった議論をして、楽しんでいました。「帝国システム」は、その中核が
経済・軍事・文化・社会・科学・思想等々あらゆる面で比較優位にある限り、
周辺は効率的成長と安定性を保証されるが、その優位に限界がきたとき、
「帝国システム」は、「主権国家システム」のように常時競争状態にないために、
圏外に強力なライバルがいない限り、永遠の停滞を続ける。
こんなことを話題にしておりました。西洋史学の中には、こういった
枠組みで歴史を捉えている研究者もいるという理解でよろしいでしょうか?

 それと、叙述方法として、第3章は複雑な戦争と講和後の問題を、
(1)、(2)、(3)と列挙することで簡潔にまとめていて分かりやすかった。

 第4章は、自由主義とか、発展主義といったキーワードに歴史を当てはめ
ていて、高校の世界史のテキストになることを避けている点が良かったで
す。もちろん、その弊害もあるでしょうが…。それとこの章は、経済思想
史か学史の先生が書かれたのではないですか?ここの章は、経済史のテキ
ストの近代の部としても使えるように思います。

A:近藤和彦 
 伝さん、ありがとうございます。
 前半は、主権国家システムが近世ヨーロッパに成立したといった場合の「ヨーロッパ」がどの範囲か、という問題でもありますね。『岩波講座 世界歴史』16 のほうでははっきり書きましたが(p.ix)、少なくとも16〜17世紀の人々にとってロシアは「ヨーロッパ」ではない。かといって、東アジア的華夷の秩序といって片づけるのは問題。
 地中海世界の独自のネットワークや、東西のカトリック世界の連係を忘れてはなりませんが、それにしても、オスマン帝国、ポーランド、ロシアは特別にあつかうに値する、と考えたからこそ、この『西洋世界の歴史』ではそれぞれ「補節」を設けました。
 それに近世的な問題が20世紀末まで尾を引いていたのかどうかも。大沼保昭さんのヨーロッパ中心主義を排した国際法システムの考えからも学ぶべきものがあると思います。

 後半についてですが、もちろん第4章執筆の小田中さんが経済学部出身にして経済学部で教えておられることは、ご承知の通り。
 【1999.12.25】


Q:杉
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