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ウズベキスタンにおけるソ連時代の記憶に関する調査報告
小松久男(東京外国語大学特任教授)

 概要

  • 出張者・日程:
    • 小松久男 2015年3月13日(金)〜3月21日(土)
    • ティムール・ダダバエフ 2015年3月13日(金)〜3月31日(火)
  • 用務地:タシュケント(ウズベキスタン)
  • 用務先:アリシェル・ナヴァイー名称ウズベキスタン国民図書館他

 報告

今回の訪問地はタシュケントのみで、アリシェル・ナヴァイー名称ウズベキスタン国民図書館でソ連時代の記憶に関する資料を収集したほか、現地の研究者とソ連時代のイスラーム行政、ソ連期とその後の学術研究の動向などについて意見を交換した。

今回の訪問の直前、3月10日にかつてソ連解体前後という多難な転換期に中央アジア・カザフスタン・ムスリム宗務局長(ムフティー)を努めたムハンマド・サーディク・ムハンマド・ユースフが死去した。公的な報道はなかったようだが、その葬儀には内外からじつに多くのムスリムが参加したといい、故人がふるった権威のほどを物語っているように思われる。今後しばらくの間、彼に代わる権威が現れることはないだろう。在職中に彼の発したファトワーなどの研究が待たれる。なお、1年前に訪れたとき、書店には彼のコーランとハディースの注釈書が何冊も並んでいたが、今回その姿は消えていた。

一方、市内では2014年10月に落成したエルマザール・モスクが、その真っ白な外観で偉容を誇っているのが目についた。巨額の喜捨を得て創建されたモスクは、広い前庭を含めて公園のような空間にそびえており、この地方の伝統的なモスクの様式とは大きく異なっている。同様な景観はタシュケント近郊のゼンギー・アタ廟でも見られた。古くから多くの参詣者を集めてきたこの廟は、大規模な拡張工事の真っ最中であった。これまでひっそりとたたずんでいたマザールの中庭は、これを形作っていた列状の建物が取り払われて、完全に露出する形になっていた。驚いたのはかつての中庭にあった古いミナレットが取り壊されてなくなっていたことである。その壁面には歴史的なモニュメントも刻まれていただけに残念なことである。このような外面的な変化は、はたして現代ムスリム社会の内面的な変化と関係があるのだろうか、こんなことも考えさせられる訪問であった。

       
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