トップページ調査・出張報告
カイロ調査報告
松本弘(大東文化大学国際関係学部・教授)

 概要

  • 日程:2014年3月2日(日)〜3月11日(火)
  • 用務地:カイロ(エジプト・アラブ共和国)
  • 用務先:カイロ大学、アハラーム戦略研究センター他
  • 用務:2011年1月25日革命以降のエジプト情勢、特に昨年7月3日のムルシィー大統領解任および暫定政権成立以降の現状に関する調査

 報告

カイロにおいて、2011年1月25日革命以降のエジプト情勢、特に昨年7月3日のムルシィー大統領解任および暫定政権成立以降の現状について、カイロ大学やアハラーム戦略研究センターの識者などにインタビュー調査するとともに、同所や市内書店などで資料収集を行なった。

周知のように、上記7月政変によりムスリム同胞団は非合法化され、12月の爆弾テロ事件のあとはテロ組織の指定を受けた。幹部を含む多数の者が逮捕され、公判中となっている。ムルシィー政権の自滅的な失政に対する批判は根強く、このような対応を当然とする姿勢がある一方、同胞団メンバーやシンパ以外にも同胞団への弾圧に反対する立場もあった。これは世俗派、リベラル派と呼ばれる人たちだが、エリートのみならず一般の人々の一部も同じ見方をとっている。その理由は、同胞団への弾圧が「革命」全体への弾圧に転じる危険性を感じているためである。実はその弾圧は既に始まっていて、革命に参加した多くの若者が破壊分子として逮捕されており、噂ではあるが彼らを含めた拘束者は1万人を超えるといわれている。

7月政変のあと、ムスリム同胞団とそれ以外という対立の構図が看取され、これにリビアから流入した大量の武器が加わり、エジプト社会は深刻な二極分化に陥った。しかし、現在その深刻さは軽減され、事態は次第に落ち着いているものとみられる。ただ、対立の構図は内容や性質を変えて残っている。それは、たとえば警察のイスラミスト(同胞団、サラフィスト、ジハーディスト)に対する弾圧への評価の違いに見られる。一方では治安を維持し国の混乱を終息させるものとして賛成する人々がおり、もう一方にはやりすぎであると反発する人々がいる。後者の反発は、必ずしもイスラミストのシンパに限らず、上述した「革命」全体への弾圧を危惧する人たちも含まれる。

メディアでは、シィーシィー国防相の大統領選挙出馬を歓迎する論調が繰り返し流され、街中にも同様な横断幕が張られていた。シィーシィーの顔写真を載せたTシャツ、キーホルダー、カードなどが街頭で売られ、ほとんどアイドルの扱いと変わらない(それらが売れているわけではないが)。一方、書店には「同胞団の凋落」といったタイトルの本が並び、メディアでは同胞団批判のみならず、「革命」そのものに関わる暴力や危険性も批判的に言及されるようになった。爆弾テロは同胞団、警察への攻撃はジハーディストによるものと考えられており、一般の人々は両者を同一視するようになっている。イスラミストも革命参加者も社会の不安定要因とみなされる風潮が、メディアによる操作などをふくめて、強くなっている。
 リベラル派といわれる人々は、シィーシィーが大統領になることには反対している。シィーシィー政権が抑圧的な性格を帯びることを警戒しているためだが、同時に他に有力な候補者がいないことも事実である。1月25日革命と7月政変を経て、現在は人々が疲れている、我慢しているといった状況にあるといわれる。不満はあるが、ここで騒いで国家がより混乱することは望ましくないと考えているようだ。このような状況をいわば利用して、シィーシィー政権への準備が着々と進められているように感じられた。
Page top