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バングラデシュ出張報告
日下部尚徳(文京学院大学人間学部)

 概要

  • 出張者:日下部尚徳(文京学院大学人間学部)
  • 日程:2014年3月6〜14日
  • 用務地:ダッカ、ノアカリ(バングラデシュ)
  • 用務先:ダッカ大学、在バングラデシュ・インド大使館、ノアカリ県庁ほか

 報告

2014年1月5日に実施されたバングラデシュ国会総選挙では、与党アワミ連盟(Awami League)が全議席の77%を獲得し、政権与党の座を維持した。しかしながら、最大野党バングラデシュ民族主義党(Bangladesh Nationalist Party以下BNP)が参加をボイコットしたことから、300の選挙区のうち153カ所は無投票で当選者が決まるという異例の事態となった。BNPをはじめとする野党18政党の不参加に加え、投票率も20%程度であったことから、今回の選挙の正当性に国内外より疑問符がつけられた。アメリカの上院議会は、今回の選挙結果に対して非難決議を採択し、両党の対話と公正な再選挙を求めた。EUは選挙実施にあたり予定されていた選挙監視団の派遣そのものを見送った。

このような背景のもと、今回の調査では、国会総選挙後に実施された地方選挙をめぐる与野党の動向と、今後の国会総選挙の再選挙に関する見通しについて、現地国会議員、官僚、NGO、国際援助機関関係者などへの聞き取り調査を、首都ダッカおよびノアカリ県にておこなった。調査を通じて、特に欧米諸国や国際援助機関が公正な再選挙実施に向けた強い意向を持っているのに対して、現地NGOや行政機関のスタッフは、これ以上の情勢悪化による業務の停滞を恐れており、再選挙に対して積極的なコメントはきかれなかった。

しかしながら、アメリカやイギリス、そして日本からの経済援助はバングラデシュの開発予算の中で大きな割合を占めることからも、これらの国々による再選挙の要求をアワミ連盟が無視しつづけることは難しいと考えられる。そのため、今後、アワミ連盟は国際的な政治圧力により、どこかの段階で再選挙に踏み切ることが、今回の調査から予想された。

また、地方選挙においては野党BNP有利の声も聞かれたが、国会総選挙のボイコットや、イスラーム主義政党とともに繰り返し実施してきた全国的なゼネストがたびたび暴力事件に発展したことから、有権者の支持が得られず、結果として厳しい戦いを強いられた。これらのことから、今後国会総選挙の再選挙が公正に実施されたとしても、アワミ連盟が優位であるとの見解が、現地有識者から多く聞かれた。

今回の調査では、バングラデシュのサイクロン災害被災地も訪れ、政治的混乱が復興に与える影響に関して、関係者に対して聞き取り調査をおこなった。全国ゼネストなどによる社会混乱は、都市部以上に地方において顕著にみられ、災害復興の足かせになっている。現地では、建設途中に予算が滞り、頓挫した防潮堤などがみられた。

現地国会図書館やダッカ大学で得られた文献資料の一部は、同意のもとスキャンをし、電子資料として保存した。今後、他の研究者との共同研究等で活用したいと考えている。
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