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「中東・イスラーム諸国の民主化」研究会報告
渡邉さやか(明治大学大学院政治経済学研究科政治学専攻博士後期課程)

 概要

  • 日時:2015年7月5日(日)
  • 会場:東京大学東洋文化研究所大会議室
  • 報告及び題目:
    • 辻上奈美恵(東京大学)「民主化は施行されているのか?アブドッラー国王からサルマン国王へ」
    • 小林周(慶応義塾大学大学院 政策・メディア研究科 博士後期課程)「政変後リビア情勢の不安定化:内部要因と外部要因の整理から」

 報告

辻上氏の報告では、現在のサウジアラビアにおける政治的枠組みとその成立に至る経緯について整理し、2003〜05年以降、部分的には民主化が促進されたものの、2001年の9・11テロ、2011年の「アラブの春」等の国際・地域情勢の影響、石油価格の高騰及び2015年1月アブドッラー国王死去によるサルマン国王への政権交代によって、民主化が停滞している旨について説明がなされた。2005年第一回地方選挙実施の際には、国民の民主化、政治参加の機運が高まるも、その結果と「勅撰」で選出される諮問評議会と地方評議会の権限格差に対する失望はその後の選挙気運の高まりを阻害している。また、石油価格の高騰を背景とした政府による経済措置の実施は、国民の生活上の不満解消、権威主義の強化につながっている。2011年「アラブの春」波及以降は、近年の地域情勢の悪化に伴いイスラーム過激派組織の取り締まりを強化、厳しく批判、ISへの攻撃に参加する等、「安全保障」や「対テロ」を名目に言論統制が進んでいる。さらに、2015年1月サルマン国王就任以降は、これまでの年齢、出生に配慮した人事から一変し、一部王族への権力集中が見られるようになっており、王族内の非民主化も懸念されている。

小林氏の報告では、2011年に起こった反体制・民主化運動後のリビアの情勢について、現在も継続する混乱の原因を内部と外部のそれぞれの側面から整理し、その複雑な絡み合いについて考察した。内部要因としては、政治プロセスの停滞やDDRの失敗に起因する新政権によるガバナンス構築が成功していない点、長期政権を誇ったカダフィ政権下における幹部職経験者の排斥(実務経験のある人材の確保が困難)、当初「革命戦士」として活動した民兵組織の暴力化による治安悪化、少数民族の武装・政治的影響力の拡大が挙げられた。また、外部要因としては、国連主導の平和構築・紛争調停が停滞している一方で、それぞれにアジェンダを持った地域諸国が介入(イスラーム過激主義組織拠点への空爆あるいは支援)、カダフィ政権崩壊後、権力・統治機能が空白となった国境地域における管理の脆弱化が挙げられた。これら内部・外部要因が複雑に絡まり合い、リビアの安定化と国家建設プロセスを妨げている上、不安定化が継続することで、サヘル地域、さらにはより広範な地域への武器拡散、治安の悪化に繋がっている。ただし、現状に鑑みれば、国内(正統性と資源を確保した政治主体の欠如、単独で国家全体を支配・統治しうるだけの能力を保持した民兵組織・武装勢力の欠如)、国外(外部勢力による武力による治安の安定化は困難)のいずれのアプローチも、政治的安定化を実現するには十分ではなく、「イスラーム国」やAQIM、イスラーム過激派主義組織・武装勢力の動向について、リビアの民兵組織の動向と併せて注目すべきであるとの指摘がなされた。
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