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日本中央アジア学会2014年度年次大会・公開パネルセッション
「変容する境域とモビリティ―中央アジア乾燥地の人・モノ・社会―」報告
新免康(中央大学)

 概要

  • 日時:2015年3月29日(日) 9:00〜12:30
  • 会場:KKR江ノ島ニュー向洋・大会議室
  • 司会:宇山智彦(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)
  • 趣旨説明:地田徹朗(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)
報告:
  • 地田徹朗(北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター)「アラル海災害からの「復興」と小アラル海漁業」
  • 中村知子(茨城キリスト教大学(兼任講師))「国境域における地域変容―イリ盆地を中心に―」
  • 古澤文(千葉大学文学部)「新疆ウイグル自治区における施設栽培による農産物輸出の現状」
  • 渡邊三津子(奈良女子大学共生科学研究センター(研究支援推進員))「青果物流通の変化にともなうカザフスタン地域農業の変容」

 報告

まず本パネルセッションのオーガナイザである地田より、本パネルセッションの趣旨説明がなされた。それは、動態的な境界のあり方に着目しつつ、中央アジア(主にカザフスタンと中国)の境域における人間活動や人とモノの動きの変化の様態について考えることである。

地田の報告は、アラル海の縮小にともなう災害状況を乗り越え、現在は「復興」プロセスの途上にあるアラル海周辺地域の状況に注目し、とくにカザフスタン領において災害からの復興がどのようにして起こり、それが現地の人間活動にどのような影響をもたらしているのかについて漁業を中心に検討した。中村の報告は、カザフスタンと中国の国境に位置するイリ盆地の地域変容に迫る一環として、中国側の国境域に土地を有する新疆生産建設兵団に焦点を当て、兵団関係資料や新聞記事、衛星写真などを分析することにより、土地の高度利用をすすめながら産業構造調整を行っている兵団の変遷実態を明らかにした。古澤の報告は、新疆ウイグル自治区において、冬季の野菜需要の増加にともなって施設栽培の導入が進められており、農産物の市場が新疆内だけにとどまらず隣接する中央アジアにも広がりを見せて輸出を目的とした栽培を拡大させている現状について、新疆とカザフスタンにおける調査をもとに検討した。渡邊の報告は、カザフスタンにおいて、国境を超えるモノの動き、とくに青果物の輸入が、施設栽培の導入やそれにともなう土地利用の変化など、市場や地域農業に与えつつある影響の具体的な様相について、農業生産者や市場の仲卸業者、小売業者へのインタビュー調査を通して明らかにした。

各報告の後、地田によるコメントが提示された上で、フロアを交えた活発な質疑応答と議論が行われた。本パネルで示された研究の方向性は、冷戦終焉後の中央ユーラシアという地域全体における経済やモノの動きのあり方の変容という大きなテーマへとつながると考えられる。そういう意味でも、大変触発的で意義深いパネルであった。
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