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「中東・イスラーム諸国の民主化」研究班研究会報告
伊賀司(京都大学東南アジア研究所)

 概要

  • 日時:2014年10月26日(日) 午後2時から6時
  • 会場:東京大学本郷キャンパス 東洋文化研究所 3階 大会議室
報告
  1. 増原綾子氏(亜細亜大学) 「インドネシア民主化と選挙」
  2. 見市健氏(岩手県立大学) 「インドネシアの選挙と宗教、エスニシティ」

 報告

両報告とも今年、実施されたインドネシアの議会選挙および大統領選挙に焦点を当てた報告であった。

最初の増原報告では、議会選挙と大統領選挙の経緯と結果や、ポスト・スハルト期の選挙制度の変更が丁寧にまとめられて報告されるとともに、民主化移行進行してきた変化として「政党のみへの投票から候補者個人への投票」、「民主化初期の選挙参加要件緩和による議会の多党化」、「地方首長直接選挙導入による国政の変化」が指摘された。増原氏の報告への質問では、議会選挙での完全非拘束名簿方式の仕組みや、その仕組みの導入以後の候補者の変化について質問がなされた。増原氏は、完全非拘束名簿方式が導入された2004年議会選挙以降、全国や当該選挙区で知名度の高い政治家の親族、資金力が豊富な実業家が名簿で多く見られるようになり、それまでの民主化に重要な役割を果たしてきた学生活動家のような票が取れない候補者が選挙名簿に入らない問題を提起し、民意をよりよく汲み取ろうとして定められた制度が、民主化の後退を招いていると指摘した。他にも、大統領候補のジョコウィとプラボウォの政策の違いは何かとの質問があった。増原氏は、二人の違いは経済・社会政策では大きく違わないが、多元主義的な政治を維持しようとするジョコウィに対し、イスラーム的志向を強めるプラボウォとの間では、政治的スタイルに大きな違いが見られると回答した。

次の見市報告では、接戦となった大統領選挙において、@何が勝負を分けたのか、A両候補の得票が地域によって大きな差が見られたが、なぜそうした地域差が生まれたか、が問いとなった。最初の問いに対しては、選挙戦で猛烈な追い上げを見せるプラボウォに対して危機感を抱いたジョコウィ陣営が、芸能人のツイッターを通じての支持拡大を企てたり、選挙の終盤で大規模なコンサートを実施したりすることで、中間層中上層の浮動票を得たことが重要であったとされた。第二の問いに対しては、ジャカルタ、北スマトラ、東ジャワの各州選挙と大統領選挙との比較の結果から分かることとして、地域別に大きく異なる構成の社会的亀裂(宗教、エスニシティ、「政治文化」)が地域差を生んでおり、大統領選も含めて一騎打ちとなる選挙戦ではこうした社会的亀裂が起動しやすいことが指摘された。

見市氏の報告の後、そのまま二人に対する質問やコメントが寄せられた。その中には、大統領選と議会選での投票行動の違いや、今回の激戦となった大統領選を契機に社会的亀裂が顕在化してタイのような状況が起こるか否かという問い、今年の選挙では既存政党への不信が見られたとの指摘など、多数の質問およびコメントが出された。
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