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「中東・イスラーム諸国の民主化」研究班2013年度第5回研究会報告
井上あえか(就実大学人文科学部)

 概要

  • 日時:2014年1月25日(土)  14:00-16:00
  • 会場:東京大学本郷キャンパス東洋文化研究所3階第1会議室
  • 主催:
    NIHUプログラム・イスラーム地域研究東京大学拠点「中東・イスラーム諸国の民主化」研究班
    科研費基礎研究「現代中東・アジア諸国の体制維持における軍の役割」(代表:酒井啓子千葉大学教授)
【報告】
  1. 鈴木絢女氏(福岡女子大学) 「2013年マレーシア下院選挙からみる20世紀政治経済システムの疲労」
  2. 伊賀司氏(京都大学東南アジア研究所) 「政治体制、メディア、社会運動―社会的アカウンタビリティから見るポスト・マハティール期マレーシアの民主化の行方」(仮題)

 趣旨

2013年5月5日に実施されたマレーシア下院選挙では、与党国民戦線(BN)が独立以来40年に及ぶ政権を守った。しかし得票率で見るとBNと野党(PR)は拮抗し、一党優位体制は明らかに動揺しているという。こうした選挙結果について、二人の報告者が異なる視点から分析した。

鈴木報告は、マレーシア政治を長期的な動態の中でとらえる。選挙に際して野党は物価の上昇や富の集中、政権の汚職といった現状を問題視し、マハティーリズムを断ち切ることを訴えた。民族間の取引の場あるいは排他的政治クラブとして長期政権の座にあった与党BNナジブラ政権は、ブミプトラ政策・経済の民主化・政治の自由化など、改革を実施してきたが、結局はすべて限定的なものにとどまっていた。長期的政治経済システムの制度疲労にBNが対応できなかった結果、一党優位体制は動揺し、今回の選挙では政権を守ったものの、今後、野党による連邦政権奪取もあり得るとしている。

伊賀報告では、今回の選挙の背景には、ポスト・マハティール期の民主化がソーシャル・アカウンタビリティの回復を求められていることがあったとする。ポスト・マハティールのマレーシア社会は、メディアや社会運動をつうじて意見の表出や議題の設定にはある程度成功してきたが、制度改革にはつながっていない。議会にアカウンタビリティが期待できない民主化途上の社会では、このような要請に対応する形で社会運動が活性化してきているが、政党政治と市民社会の間のジレンマがあるため、結局は野党がソーシャル・アカウンタビリティ実現主体として期待されざるを得ず、力をもつようになっているという。このような実態は、各種のアカウンタビリティ同士の相互関係の重要性を示しており、アカウンタビリティ理論にたいする重要な示唆ともなっていると指摘している。

いずれの報告も、マレーシア政治の転換の可能性を明快に説明する興味深い内容であった。
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