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2013年度第4回「中東・イスラーム諸国の民主化」研究会
堀拔功二(日本エネルギー経済研究所)

 概要

  • 日時:2013年10月20日(日) 14:00-18:00
  • 会場:東京大学 本郷キャンパス 東洋文化研究所 3F 第一会議室
  • 主催:
    • NIHUプログラム・イスラーム地域研究東大拠点「中東・イスラーム諸国の民主化」研究班
    • 科学研究費基盤研究「現代中東・アジア諸国の体制維持における軍の役割」(代表:酒井啓子・千葉大教授)
  • 報告:
    • 井上あえか氏(就実大学)「パキスタン総選挙2013ー民主化前進への期待と課題」
    • 坂梨祥氏(日本エネルギー経済研究所中東研究センター)「イランの第11期大統領選挙―「選挙の意義」の再検討―」

 報告

井上報告は、2013年5月に行われたパキスタン下院総選挙について、選挙前の政治動向などが選挙結果にいかなる影響を与えたのか、検討がなされた。パキスタン政治は従来、政権・司法ともに軍の強い影響下にあった。しかし、2007年以降に最高裁が軍や政府から自立的な動きをし、また軍の影響力の象徴であった大統領権限が縮小された。さらに、軍と司法・政府との関係も変化した。そして、選挙は政権批判を強めた野党PML-Nが勝利し、与党PPPは議席を大きく減らすことになった。一方、二大政党への失望が弱小政党のPTIを躍進させ、第三勢力の地位を確立した。将来的な民主化への展望としては、国内外の政治課題を抱える中で、政党間の交渉が始まったことや軍の政治への関与が減っている点については、政治的安定にとって注目すべき点である。

坂梨報告は、2013年6月に実施された第11期イラン大統領選挙について、「今回の選挙が意味することとは何か?」を問いに分析した。選挙は前評判とは異なり、ロウハーニーが第一回目の投票で当選を確定する「大サプライズ」であった。イラン大統領選挙は、いわゆる「競争的権威主義体制」下での選挙であると整理できる。実際、選挙は体制の正当性維持のため行われており、国民は体制側が提示する選択肢から大統領を選んでいるとも言える。にもかかわらず、国民がロウハーニーを選択したのは、同氏が候補者の中で最も強い現状批判を展開したからであり、国民が変化を希求したことの証左であろう。また、政権も選挙結果を受け止めたことは、選挙結果が体制の思惑と国民の選択の接点の上に成立したものであると指摘された。

両報告とも、権威主義体制そのものや国内政治バランスの変化を、直近の選挙結果が如実に示していることを明らかにする、非常に興味深い議論であった。
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