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2013年度第3回パレスチナ研究班定例研究会 
錦田愛子(東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所助教)

 概要

  • 日時:2013年7月20日(土)13:00-18:00
  • 会場:東京大学 本郷キャンパス東洋文化研究所3階大会議室
  • 主催:NIHUプログラム・イスラーム地域研究東京大学拠点パレスチナ研究班
  • 報告1:濱中新吾(山形大学地域教育文化学部准教授)「アラブ革命の陰で:パレスチナ人の国際秩序認識に反映された政治的課題」
  • 報告2:武田祥英(千葉大学大学院人文社会科学研究科博士後期課程)「第一次大戦期英国における「ユダヤ教徒」像と自由党の変容のパラレルな関係について」

 報告

濱中氏の報告は、パレスチナを取り巻く政治情勢を、占領地在住のパレスチナ人はどのように認識しているのか、国際秩序認識という観点から分析した研究であった。2009〜2012年に実施された科研費による世論調査の結果にもとづき、計量分析アプローチが用いられた。報告者の意図は、国際システムの認識を、イメージではなく客観的な指標で描くことにあり、そのために報告者自身が開発した政治的認知地図などが分析に用いられた。分析の結果、2011年以降のアラブ革命はパレスチナの安定や中東和平にマイナスの影響をもたらすと捉えられていることや、ファタハ系とハマース系の間に国際秩序認識の明確な差が認められることなどが、視覚的に明らかにされた。質疑では回答者の住む地域(西岸とガザなど)ごとに特徴が認められるか、など分析のさらなる発展の可能性について質問が出たが、提示された実証内容については、おおむね説得力をもつことが確認されたといえる。

武田氏の報告は、歴史学の手法で、第一次世界大戦期のイギリスにおける1916年兵役法案をめぐる議論を扱う内容であった。移民ユダヤ教徒を兵役に組み込もうとする法案に対して、当時の英国ユダヤ人社会を代表する存在であったロシアン・ウルフとハーバート・サミュエルという二人が果たした役割を、議会での論争とそれへの民衆の反応を通して明らかにしていった。本研究では、これまで歴史研究の分析であまり扱われることのなかった海軍資料を積極的に用いており、議論の展開に関する新しい側面を指摘することに成功している。

本研究会での報告は、方法論、対象となる時代ともに大きく異なる内容だったが、それぞれ着実な調査と分析に基づく完成度の高い報告であり、活発な議論を行なうことができた。
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