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ヤコブ・ラブキン京都講演会報告
鈴木隆洋(同志社大学大学院)

 概要

  • 日時:2013年1月17日(木)16:00〜18:00
  • 会場:京都大学本部機内総合2号館4階会議室
  • 主催:イスラーム地域京都大学拠点
  • 共催:
    • イスラーム地域東京大学拠点
    • 科研費基盤研究(A)「アラブ革命と中東政治の構造変動」
  • 講演者:ヤコブ・ラブキン
  • 講演題目:Why Has Israel Become the Darling of the Right-Wingers?

 報告

1月17日に京都大学で行われた、ヤコブ・ラブキン教授(モントリオール大学)による講演と質疑応答の要旨をそれぞれ以下に報告する。

講演要旨

社会主義のイメージがあったイスラエルが、いまや右翼のメッカとなっているのはなぜか。イスラエルでは、「ガザをヒロシマの様にしてやる」というシャロン元首相の寄稿が編集を通ってしまう現状にある。国益ではなくイデオロギーに基づいて、カナダはイスラエルを強固に支持している。たとえばアメリカ人の極右シンクタンクの設立者ジョージ・ギルダーは、資本主義と技術開発はユダヤ思想に一部由来するとして、創造的な資本主義、そしてアメリカの生き残りのためには、イスラエルの防衛が必須だと書いている。20年前なら出版することなどできないような、クリスチャン・シオニストと同類の非理性的な論調である。

ノルウェーのブレイヴィク(無差別殺人犯)は、イスラエルについて359回も好意的に言及している。反ユダヤ主義から生まれたイスラエルから、いまや反イスラームが生まれ、反イスラームに舵を切った反ユダヤ主義者たちは、いつのまにかイスラエルの友となっている。シオニズム思想の現実的な側面のひとつは、ヨーロッパの民族主義的国民主義とアメリカのフロンティア精神にその起源をたどることができる。

また、現在のイスラエルの植民地主義がいかに非理性的かは、現在の経緯に至る過去の歴史に目を向ければ明かとなる。たとえばワイツマンは、ユダヤ人を共産主義から切り離すためにシオニズムを援助せよとチャーチルに迫った。ドイツ・シオニズム運動は、ドイツに幻滅し移民を選ぶユダヤ人が増えるだろうと考え、ヒットラー政権の誕生に祝福を送った。入植当初から、シオニストらは防衛のために排他的な集団と化し、キブツには監視塔と防壁が真っ先に築かれ、またユダヤ労働総同盟によってアラブ人労働力が排除された。シオニズム運動とナチ政権の取引の結果、ドイツ・ユダヤ人の財産はドイツ製品と引き換えるなら持ち出す事が可能になったため、30年代のパレスチナにはドイツ製品があふれていた。ナチス自身もシオニズム運動の入植の経験に興味があり、関係性が深まる中でナチス高官はキブツに招待され、またナチ政権による移民前農業研修まで実施されていた。

現在でも次々と新入植地が外縁に築かれており、外縁が広がるほど中は安全だ、という訳だ。建国後、国民の均質化の達成のために、非白人系ユダヤ人の乳児は死んだことにされて、キブツに送り込まれヘブライ語/ヨーロッパ的環境下で育てられていたことまであった。

現在、ネタニヤフはクリスチャン・シオニズムとネオコン側に立っており、ネオリベラリズム経済への転換を目指して、インフラの民営化をすすめている。OECD諸国中、ジニ係数が一番ひどいのがイスラエルで、低所得社会層から安価な労働力を確保できるため良好な投資先だ、とされている。イスラエル中心部にある有名なキブツが、ショッピングモールに転換されたことは、ネオリベラリズム経済路線を謳歌するいまのイスラエルを象徴している。

民衆からの抗議や反発への対処のノウハウと、その専門的人材の輸出にも余念がなく、これらを必要とする南ア市場を独占している。複雑な民族状況に苦しむ東欧では、古くから強い反ユダヤ主義があったにもかかわらず、民族別経済を体現した発展であるとしてイスラエルの人気が高くなっている。

イスラエルの社会主義というのは、社会を変革するための本来的な社会主義でなく、形骸化した制度としての社会主義、土地占領のための社会主義、国家的資本主義の発展のための社会主義に過ぎない、といえるだろう。

質疑概要

Q:ヨルダンとエジプトでは、経済構造改革プログラムの実施と和平の実現で、イスラエルとの経済的つながりが増した。アメリカもそれを後押ししているが、この現状の行方をどう考えるか?

A:ソ連邦崩壊後、北欧型も含め、レッセフェール/ネオリベラリズム経済に代わるオルタナティブな経済モデルの権威は失墜した。ソ連邦に留学経験もある南アの副大臣は、経済の選択肢はないと私に語った。格差が悪化した現在の南アの警官数は、アパルトヘイト時代の4倍に達している。昨年、南アのプラチナ鉱山で警官隊による発砲でストライキ中の鉱夫から多数の死者が出たことを思い出せば、民衆の連帯より資本家間の連帯が強いことが分かる。1830年代のように、抗議に明確なイデオロギーを欠く時代である。エジプトも経済改革は不可能だろう。

以上の質疑の他、現在の教育格差と軍事化の同時進行の問題などが質疑の話題とされた。
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