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基盤研究・民主化班合同研究会「アラブ革命その後の展開:エジプト・チュニジア・シリアの事例から」報告
松本弘(大東文化大学教授)

 概要

  • 日時:2012年12月16日(土)13:30−18:00
  • 場所:東京大学東洋文化研究所大会議室
  • 共催:
    • 文部科学省科学研究費基盤研究(A)「アラブ革命と中東政治の構造変動」
    • TIAS「中東・イスラーム諸国の民主化」研究班
  • 報告1:長沢栄治(東京大学)「エジプト2012年夏」
  • 報告2:岩崎えり奈(共立女子大学)「フィールドワーク調査報告―チュニジアを中心に」
  • 報告3:ホッサヌ・ダルウィッシュ(JETROアジア経済研究所)「シリアとアラブの春」

 趣旨

今年度より上記科研費基盤研究「アラブ革命と中東政治の構造変動」が開始され、代表者である長沢栄治氏より、これとTIAS民主化班およびパレスチナ班との研究活動に関する連携の提案があった。TIAS両班も連携に賛同し、まず基盤研究と民主化班の連携を協議する会合が持たれることとなった。会合の準備段階で、会合後に関係者による第1回合同研究会も行われることとなり、上記日程にて開催された。

 報告

長沢氏は2011年9月、2012年3月および8月のエジプト訪問から、現地の状況に関わる問題提起を行なった。そこでは、ムルシー大統領が1月25日革命後のエジプトを「第二共和制」と呼んだことや、革命に関わる「ナセルの亡霊」といった指摘が紹介され、1952年の7月革命と今次1月25日革命の比較の試みが提示された。比較では、革命の始まりと終わり、革命に関わるアクター、革命後の政治プロセス(憲法や選挙など)、社会運動の質の違いなどが論じられた。この比較を通してみた1月25日革命の特徴も指摘され、特にその第二段階の山場としての新憲法に関わる様々な問題が強調された。

岩崎氏は、2012年11月に実施したチュニジアでのフィールドワークの結果を紹介し、そこから革命後の状況の分析を行なった。まず、革命後の政治展開や動向が解説され、特に2011年10月に実施された制憲議会選挙の結果を、チュニジアの各地方の特性や中央地方関係から評価した。各政党の地方別の得票や議席と地方間の経済格差などとの関係が分析された。また、様々な問題がナフダ党と世俗派との対立に収斂している状況も指摘され、革命後のチュニジアに対するわかりにくさが提示された。

ダルウィッシュ氏はシリアの内戦状況に関する報告で、まずシリアはイラクと同様にstate buildingはなされてきたが、nation buildingはなされてこなかったという特徴を解説した。フランス統治時代は宗派を用いた分割支配がなされ、独立後も軍のクーデターが多発して、中央集権化もナショナル・アイデンティティの醸成も進まなかった。現在のアサド政権もその延長線上にあるが、しかし内戦に至っても支配エリートの離反や軍のクーデターは生じていない。その理由は、アサド体制の特徴を表わす以下の3点にある。第一に、大統領府を頂点とする各下部機関が相互監視をするとともに、社会をコントロールしていること。第二に、選択的民営化によって成功したビジネスエリート(アサド一族、軍・治安機関・官僚出身者)が体制に依存しており、民間部門も政府のコントロール下にあること。そして、第三に40年以上にわたる「恐怖と暴力の制度化」(1963年非常事態法以降の国家の暴力)である。最近では、アサド政権が少数派の支持を取り付けて宗派対立を煽る一方、北部から軍が撤退したことによりクルド人の自治が始まるなど、民主化や自由といった当初の目的とは異なる状況が作られている。
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