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2011年度第2回民主化班定例研究会報告
日下部尚徳(岐阜女子大学南アジア研究センター)

 概要

  • 日時:2012年1月27日(金) 午後2時から6時
  • 場所:東京大学文学部 法文1号館211教室(本郷キャンパス 正門を入ってすぐ左前方の建物)
  • 報告者1:井上あえか氏(就実大学)「パキスタン民主化への展望:対テロ戦争とイスラーム化のはざまで」
  • 報告者2:山根聡氏(大阪大学)「民主化から10年を迎えるアフガニスタン―その歩みと課題」

 報告

1.民主化から10年を迎えるアフガニスタン―その歩みと課題―

山根聡氏は、アフガニスタンの国名の変遷をたどりながら、近現代史の詳細な解説をおこなった上で、2001年のボン合意に基づく暫定政権発足から現在にいたる民主化過程を論じた。また、アフガニスタン特有の議会制度や立法制度、政党についての解説も加えられた。アフガニスタンには、数多くの政党が存在しながらも全国的に支持基盤をもっているのは、イスラーム協会程度であることや、政権与党の枠組みが明確でなく、現実的には「親カルザイー派」と「反カルザイー派」の2派に分けられることなどを指摘した。今後、米国オバマ大統領が本格的に東アジア重視の外交政策に舵を切った場合に、アフガニスタンの民主化定着に対する国際的関心が低下する可能性や、ターリバーンを含めた和平合意の重要性なども提示された。

2.パキスタン民主化への展望―対テロ戦争とイスラーム化のはざまで―

井上あえか氏からは、パキスタンの政治制度の詳細な説明と、民主化が進展しない要因に関する分析が示された。パキスタンの政治制度に関しては、特に大統領権限をめぐる歴史的な変遷を追うことにより、民主化への課題を提示した。1990年代の民政下においては、大統領の議会解散権が行使され、首相が繰り返し任期前に解任されるなど、民主体制確立の阻害要因となっていた。ムシャラフ軍事政権を経て、2008年民政移行後の2010年に憲法が改正され、三軍の長の任命権と裁判官の任命権が大統領から首相に移された。これによって首相と議会の権限が強化され、民主主義確立にむけた大きな前進があったと一定の評価を下すものの、軍の力を統制できる民主体制の構築が可能なのか、疑問符もつけられた。また、パキスタンの民主化が思うように進まない背景には、@近代的制度とイスラーム的制度の二重構造、A軍部情報部とイスラーム勢力の権力の定着、があると指摘した。特に国際政治におけるパキスタンの位置づけが、軍情報部とイスラーム勢力の関係強化につながったことに関して歴史的な解説が加えられた。

一方で、近年司法界が民主化の前進に大きな役割をはたしていることも井上氏は指摘した。最高裁判所長官による大統領弾劾訴訟やそれを支持する司法関係者による政治行動がみられるなど、三権分立の実質的な確立を目指す司法界が、パキスタンの民主化を促進する上で、新たな潮流を生みだしていると論じた。

発表後の質疑応答では、中東地域の民主化過程との比較や、両国にまたがるイスラーム武装主義勢力の現状、軍の正当性の根拠と政治家への不信、民主化過程における日本の役割などに関して、活発な議論がなされた。両氏はアフガニスタン、パキスタンの建国の歴史やアイデンティティ論、南アジアの大国インドとの関係、アメリカをはじめとする欧米諸国との国際関係までをも論じながら、解説を加えた。
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