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内陸アジア史学会2011年度大会報告
植田暁(東京大学大学院人文社会系研究科)

 概要

  • 日時:2100年11月12日(日)
  • 会場:富山大学五福キャンパス
  • 公開講演:小谷仲男氏(富山大学・名誉教授)「遊牧民族の右臂を断つ理論―中国正史西域伝の訳注序説―」
  • 研究発表
    1. 三船温尚氏(富山大学・教授)「アジアの高錫青銅器―鋳造・鍛造・熱処理技術について―」
    2. 岩尾一史氏(神戸市外国語大学・客員研究員)「古代チベット支配下敦煌における写経事業とその経費処理」
    3. 清水由里子氏(中央大学・兼任講師)「『東トルキスタン史』の叙述傾向と史料的価値について」

 報告

11月12日、富山大学五福キャンパスにおいて内陸アジア史学会2011年度大会が開催された。

本大会ではまず小谷仲男氏(富山大学名誉教授)による公開講演『遊牧民族の右臂を断つ理論―中国正史西域伝の訳注序説― 』が行われた。小谷名誉教授の進められてきた『新唐書』『隋書』『周書』等の西域伝訳注作業の中から、西域対策のキーワードとして現れたのが「遊牧民族の右臂を断つ」という政策理論であった。このような議論は前漢の武帝への張騫による提言に始まり、後漢の班超、班勇に受け継がれ、北魏の柔然対策、隋・唐の突厥、吐蕃対策にも同様の議論が現れた状況に関して講演がなされた。

続く研究発表では3つの報告が行われた。三船温尚氏(富山大学・教授) による発表『アジアの高錫青銅器―鋳造・鍛造・熱処理技術について―』は日本ではほとんど知られていない錫含有率の高い青銅器技術のアジアにおける広がりとその歴史的伝播を取り扱った。高錫青銅器は通常の青銅器とは異なる物性を持ち、インド、東南アジア、朝鮮半島、中央アジアなどに広がったが、おそらくはインドがこの技術の起源であろうとの推測が示された。岩尾一史氏(神戸市外国語大学・客員研究員)による『古代チベット支配下敦煌における写経事業とその経費処理』は敦煌文書の分析を通して高度な文書行政を伴った古代チベット帝国の行政機構の復元を試みた。スタイン収集敦煌チベット語文書に含まれる7件の申請文から写経事業の経費処理の経路を浮かび上がらせ、チベットの会計と支出認可という行政の仕組みを明らかにした。清水由里子氏(中央大学・兼任講師)による『 『東トルキスタン史』の叙述傾向と史料的価値について』は1930・40年代のウイグル人の民族運動において指導的な役割を果たしたムハンマド・エミン・ボグラの著書『東トルキスタン史』に焦点をあて、新資料の開拓によってその意義を再検討した。ボグラの活動と出版の経緯を明らかにし、叙述傾向と史料的価値に関する検討が行われた。

本大会は、基調講演として小谷仲男富山大学名誉教授を迎え、研究発表では時代及び方法論において多様な3つの報告が行われた。全国から多くの研究者、大学院生が参加し活発な議論が行われた。本大会は近年の内陸アジア史研究の広がりを確認したが、各分野における今後の研究の進展が期待される。
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