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2011年度第2回(通算第13回)パレスチナ研究班定例研究会報告
鈴木啓之(東京大学大学院総合文化研究科博士前期課程)
金城美幸(立命館大学大学院先端総合学術研究科博士後期課程)

 概要

  • 主催:NIHUプログラム・イスラーム地域研究 東京大学拠点(TIAS)
  • 共催:京都大学地域研究統合情報センター(CIAS)地域研究における情報資源の共有化とネットワーク形成による異分野融合型方法論の構築研究会
  • 日時:6月26日(日)13時00分〜17時00分
  • 会場:東京大学本郷キャンパス 東洋文化研究所3階大会議室
  • 報告者
    • 鈴木啓之(東京大学大学院総合文化研究科博士前期課程)
    • 金城美幸(立命館大学大学院先端総合学術研究科博士後期課程)

 報告

報告者@鈴木啓之(東京大学大学院総合文化研究科博士前期課程)
「パレスチナ・動員基盤としての学生組織:インティファーダ以前を中心として」


発表者は社会運動論において提起される学生運動の類型(Gill and DeFronzo[2009])を出発点としてパレスチナ被占領地における学生運動の発展の過程を分析し、これによってインティファーダ(1987年発生)へと至る背景の一つを明らかにしようと試みた。分析のなかでは、被占領地において初めて四年制大学が設立された1972年を出発点とし、1987年のインティファーダ発生までを検討した。特に1985年および1986年に学生とイスラエル占領当局が衝突することで短期間の「蜂起」が行われていることに注目し、これをインティファーダへの布石として考察を加えた。

会場からは、既存の類型に時間軸を加えることによって発展段階に置き換えることの問題性や、パレスチナにおける学生の政治活動を「新しい社会運動」の立場から捉えることに対する疑義が提起された。他国による占領とそれに対する住民の抵抗という構図のなかで行われる大衆運動は、通常の社会運動論が中心的に扱う一国内における運動とは分けて考えられるべきであり、この点においてより綿密な一次資料の読み込みと分析によってパレスチナ独自の学生運動のあり方を検討することが必要なのではないかとの示唆的なコメントがあった。

(文責:鈴木啓之)

報告者A金城美幸(立命館大学大学院先端総合学術研究科博士後期課程)
「イスラエルの「独立戦争」の集合的記憶―「新しい歴史学」以降の展開」


本報告は、1980年代に登場したイスラエルの新しい歴史記述が、その後の歴史研究におよぼした影響を、近年台頭を見せる「ネオシオニズム」の研究潮流との関連から考察するものであった。具体的には、エルサレムのシャレム・センターなどの研究シンクタンクを中心とし、「ネオコン」的な思想とも親和性のある「ネオシオニスト」たちのユダヤ人国家観についての言説を中心として分析が行われた。新しい歴史家の登場以降、イスラエル建国時にパレスチナ人に対する追放が行われたことは、今やイスラエルでは広く受け入れられることとなったが、そのなかで本報告は、近年のネオシオニズム的潮流のなかで顕在化しているパレスチナ人の追放を合理化する言説とその論理構造を扱った。

会場から、本報告はネオシオニストとポストシオニストの連関を論じるものだったが、ネオシオニストが仮想敵とするのは第一義的にはパレスチナ人の言説であるとの指摘や、住民移送を合理化する20世紀以降の国際関係のなかでイスラエルの言説の転回を理解する必要性など闊達な議論が行われた。また近年のイスラエル社会内の対立をイデオロギー的次元だけでなく、民営化やグローバリゼーションといった経済的観点からも捉えなおす必要性も提起された。

(文責:金城美幸)

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