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日本中央アジア学会研究ワークショップ・第27回中央ユーラシア研究会特別セッション報告
塩谷哲史(筑波大学)

 概要

中央アジア学会研究ワークショップ・第27回中央ユーラシア研究会特別セッション
  • 主催:日本中央アジア学会
  • 共催:NIHUプログラムイスラーム地域研究東京大学拠点
  • 会場:東京大学本郷キャンパス法文1号館2階216番教室
プログラム:

6月4日(土) 午後 13:30〜17:10
  • 河原弥生(人間文化研究機構地域研究推進センター研究員)「ムハンマド・ハキーム・ハーンとその著作『選史』について」
  • 登利谷正人(上智大学大学院博士後期課程)「「アフガニスタン近代史」の成立過程」
  • 中嶌哲平(北海道大学大学院博士後期課程)「帝政ロシア治下バクーにおける活字メディア――第一次世界大戦期『明瞭な言葉』Achiq Soz紙分析に向けて――」
6月5日(日) 午前 10:00〜12:20
  • 立花優(北海道大学大学院博士後期課程)「2010年アゼルバイジャン国民議会選挙分析」
  • 稲垣文昭(慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問))「中央アジアの電力インフラについて」
6月5日(日) 午後 13:20〜17:00
  • 木谷舞里(慶應義塾大学大学院修士課程)「キョルオール叙事詩における人物類型の試み――研究動向の整理とともに――」
  • 桜間瑛(北海道大学大学院博士後期課程)「間違った正教徒か?土着信仰の正しい継承者か?――クリャシェンにおける祈願儀礼と自己認識――」
  • 須田 将(北海道大学大学院博士後期課程)「戦前ソ連社会の民族政策再考――ウズベク共和国の党・国家文書から(1920−30年代)――」

 報告

例年3月静岡県松崎町で開催されてきた中央アジア学会・まつざきワークショップは、未曽有の震災の影響により、本年は6月4日、5日の両日東京大学にて中央アジア学会・研究ワークショップとして開催されることになった。被災された皆様に、心よりお見舞い申し上げます。

以下、本ワークショップでの報告の紹介に移りたい。6月4日午後には3名の報告があった。河原弥生「ムハンマド・ハキーム・ハーンとその著作『選史』について」は、19世紀中葉コーカンド・ハーン国で成立したペルシア語史書の史料的性格を踏まえた上で、成立当時の同ハーン国をめぐる政治情勢に執筆動機を読み取った。登利谷正人「「アフガニスタン近代史」の成立過程」は、アフガニスタンの領域に成立した諸王朝の伝統的歴史叙述が、20世紀初頭に成立した『史灯』に示された近代アフガニスタンの統一史観の中に取り込まれていく過程を明らかにしている。中嶌哲平「帝政ロシア治下バクーにおける活字メディア―第一次世界大戦期『明瞭な言葉』Açiq Söz紙分析に向けて―」は、第一次大戦開戦後のコーカサスのムスリムが、いかなる社会的現実を背景に記事を選択して報道し、それがさらに社会にどのような影響を与えたのか、という課題を、当時バクーで発刊されていた定期刊行物の記事の分析によって明らかにしていく試みである。

6月5日午前には2名、午後には3名の報告があった。立花優「2010年アゼルバイジャン国民議会選挙分析」は、アゼルバイジャン共和国独立後4度目の国民議会選挙(2010年11月)に焦点を当て、同議会で多数を占める巨大与党YAP内部の、選挙運営をめぐる混乱や利害対立を浮き彫りにさせた。稲垣文昭「中央アジアの電力インフラについて」は、ロシア主導の電力網改革の限界とそれに対する中央アジア諸国独自の動き、さらに周辺諸国(アフガニスタン、パキスタン、インド)との間の電力網創設計画の実態を明らかにする。木谷舞里「キョルオール叙事詩における人物類型の試み―研究動向の整理とともに―」は、アフガニスタンからバルカンにかけて残る同叙事詩について、膨大な先行研究を整理したうえで、その主人公像を描出する試みである。桜間瑛「間違った正教徒か?土着信仰の正しい継承者か?―クリャシェンにおける祈願儀礼と自己認識―」は、ロシア連邦タタールスタン共和国カザン市近郊の村でのフィールドワークをもとに、ソ連崩壊後復興した宗教(正教)、民族(タタール)の制度化、固定化された概念の浸透の中で、人々がいかに伝統的な儀礼を実践しているのかを明らかにする。須田将「戦前ソ連社会の民族政策再考―ウズベク共和国の党・国家文書から(1920−30年代)―」は、マーティン『アファーマティヴ・アクションの帝国』に展開される議論を踏まえた上で、1920-1930年代ウズベキスタン共和国における社会成員の平準化の限界を探る試みである。

以上、若手研究者を中心とした8名により、文学、歴史学、文化人類学、地域研究の分野から、時期も18世紀から現代に至るまでをカヴァーした幅広い研究報告が行われた。今回は首都圏を中心に大学院修士・博士課程に在籍している多数の新たな参加者を迎えたこと、そして彼らの積極的な質疑から活発な議論が行われたことは、今後さらなる中央アジア研究の進展を予感させるものとなった。
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