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国際ワークショップ「日本のシルクロード外交」報告
野田仁(日本学術振興会特別研究員・財団法人東洋文庫)
 ワークショップの概要
 報告

 ワークショップの概要

International Workshop
JAPAN’S SILK ROAD DIPLOMACY: PAVING THE ROAD AHEAD

  • Date: September 22, 2007
  • Venue: Sanjo Conference Hall, The University of Tokyo
  • Organizers:
    • The Central Asia-Caucasus Institute & Silk Road Studies Program (Washington, D.C. / Stockholm)
    • The Slavic Research Center, Hokkaido University (Sapporo)
    • Islamic Area Studies Program, The University of Tokyo (Tokyo)
  • Co-Chairs:
    • Hirose Tetsuya (Former Japanese Ambassador to Azerbaijan)
    • Christopher Len (CACI & SRSP)


Program

9:30-9:40 Opening speeches

9:40-11:40 Session 1. Japan's New Role in Central Asia
  • Kawato Akio (Former Japanese Ambassador to Uzbekistan) Formulation of Japan’s Policy “Central Asia Plus Japan”
  • Christopher Len (CACI & SRSP)
    Japan’s Evolving Central Asian Policy
  • Yuasa Takeshi (The National Institute for Defense Studies, Japan)
    Japan’s Developing Initiative in Eurasia
  • Discussant: TBA

12:50-14:50 Session 2. Japan-Central Asian Relations in the Global and Regional Contexts
  • Iwashita Akihiro (Hokkaido University)
    SCO: Power Balance or Border Dynamics?
  • Erica Marat (CACI & SRSP)
    Japan’s Role in Kyrgyzstan’s Political and Economic Development since Independence
  • Uyama Tomohiko (Hokkaido University)
    Japan’s Diplomacy towards Central Asia in the Context of Japan’s Asian Diplomacy and Japan-US relations
  • Discussant: Timur Dadabaev (Tsukuba University)
15:00-16:30 Session 3. Economic Aspects of Japan-Central Asian Relations

  • Niklas Swanstrom (CACI & SRSP)
    Economic Integration As a Tool for Conflict Management and Confidence Building in Central Asia
  • Shimao Kuniko (York St John University)
    The Political and Economic Relationships between Japan and West and Central Asian Countries with Reference to the Development of Energy and Natural Resources
  • Discussant: Sugimoto Tadashi (Euro-Asian Research Institute)

16:30-17:00 General Discussion

17:30- Reception

 報告

9月22日、国際ワークショップ「日本のシルクロード外交JAPAN'S SILK ROAD DIPLOMACY: PAVING THE ROAD AHEAD」が、東京大学山上会館大会議室にて、イスラーム地域研究東大拠点と北海道大学スラブ研究センターとの共催に加え廣瀬徹也・元駐アゼルバイジャン大使の協力により開催された。また本ワークショップは、アメリカとスウェーデンを中心に活動する中央アジア・コーカサス研究所(ワシントンD.C.)&シルクロード研究プログラム(ストックホルム)(CACI & SRSP)から多くの研究者を招いている。共同議長は、廣瀬氏とChristopher LEN氏(CACI & SRSP)であった。


廣瀬氏による開会の辞に続いて、第一セッション「中央アジアにおける日本の新しい役割」から各報告が始まった。以下、報告毎に簡単に内容を紹介する。タイトルは筆者が仮に訳したものであり、正確には、出版される予定である日本語版報告集に拠って確認されたい。
  1. 河東哲夫氏(元駐ウズベキスタン大使/東京財団)「日本の「中央アジア+日本」政策の成立」
    中央アジアの重要性を指摘した上で、日本の外交史を振り返り、2004年8月の川口外相(当時)による中央アジア歴訪を契機とする『「中央アジア+日本」対話』政策の開始までの経緯を明らかにした。またこの政策が目指すところは、グレートゲームではなく、地域の安定にあることを強調した。
  1. Christopher LEN氏(CACI & SRSP)「日本の中央アジア政策の展開」
    日本の対中央アジア外交の推移を三つの段階(1992〜97年、1997〜2004年、2004年〜現在)に分けて整理・分析した報告。アフガニスタン、ロシア、中国という外的な要因により、中央アジアをめぐる国際環境は大きく変化しているが、その中で、日本の果たしうる役割の大きさについて検討がなされた。
  1. 湯浅剛氏(防衛研究所)「ユーラシアにおいて増大する日本のイニシアチブ」
    冷戦後のユーラシアにおける、ODAに代表されるような日本の活動についての分析であった。またいわゆる「自由と繁栄の弧」路線の今後について、政局の揺れ動きを受けて、先行きが不透明であることを指摘し、より制度的な基盤のある体制が必要であると提言した。
第一セッションの討論者は田村桂介氏(外務省)。日本にとっての中央アジアの重要性と日本のこれまでの中央アジアに対する貢献が確認された。


つづく第二セッションは「グローバルあるいは地域的文脈の中での日本=中央アジア関係」と題され、より大きな国際関係の枠組みの中での日本と中央アジアの関係のあり方を模索するものであった。

  1. 岩下明裕氏(スラブ研究センター/The Brookings Institution)「上海協力機構(SCO):パワーバランスか国境の力学か?」
    2001年に組織されたSCOについてその構造分析の面からの報告。国境を共有するかどうかという点に注目し、その構成国間の関係を整理したモデルの提示は刺激的であった。従来SCOが有していた反米の性格をどのように調整するかが問われていることを示し、それに関連して、SCO+3(米国、ヨーロッパ、日本)の枠組みを提言した。
  1. Erica MARAT氏(CACI & SRSP)「独立後クルグズスタンの政治・経済発展における日本の役割」
    日本がどのようにクルグズスタンへの協力を発揮してきたかについての報告。日本センターなどを含む国際協力機構(JICA)の活動やODAのような文化的なあるいは経済的な側面にとどまっていることを指摘した。
  1. 宇山智彦氏(スラブ研究センター)「日本のアジア外交および日米関係の文脈における日本の対中央アジア外交」
    日本のアジア外交という大きな枠組みを明治期より歴史的に振り返ったものである。それまで大なり小なり米国の意図に沿う形で進められてきた日本のアジア外交だったが、1990年代以降の日本の対中央アジア外交においては、アメリカの関心の低さも手伝い、独自の外交を展開していることを指摘した。2001年以降中央アジアへの関心を高めつつあるアメリカとの関係を見据えつつ、アジアにおいて日本が果たすべき役割を提唱し、とりわけ広い意味での対アジア外交に対する姿勢を変える必要性を強調している。
第二セッション討論者はTimur DADABAEV氏(筑波大学)であり、各報告をまとめながら、日本と中央アジア諸国との関係を整理した。


第三セッションは「日本=中央アジア関係の経済的側面」である。

  1. Niklas SWANSTRÖM氏(CACI & SRSP)「中央アジアにおける紛争解決と信頼醸成の手段としての経済統合」
    政治的には上海協力機構があるにもかかわらず、経済的協力がすすんでいない中央アジア地域にとって、「東北アジア諸国(日本・韓国・中国)」の資本が果たしうる役割を提示した。
  1. 嶋尾孔仁子氏(York St John University)「エネルギー・自然資源に関連する日本・西アジア・中央アジア諸間の政治経済関係」
    石油資源の観点から西アジア・中央アジア諸国への日本のかかわり方を整理した報告で、当該諸国との協力が不可欠であることを述べている。
第三セッション討論者は杉本侃氏(欧亜総合研究所)で、地域間の経済協力の必要性とエネルギー資源を軸にコメントを行った。


このワークショップの特徴の一つに、中央アジア各国の元大使の参加が多く見られたことがある。ディスカッションにおいては、日本の協力の象徴というべきODAのあり方について質問が寄せられていたが、大使として赴任していた諸氏からのいわば生の情報も提供され、議論が盛り上がったことは注目すべきであろう。

全体の議論を通して、既存の上海協力機構に対してどのようにかかわっていくのか、また中央アジア諸国に共通する民主化の問題にどう貢献していくのかが、日本の外交にとっての大きな課題としてあることが理解できたように思われる。また総括討論において廣瀬氏が述べたように、コーカサスに対する日本の立場についても同様に議論を進めていくことが必要であろう。中央アジアに対して日本の果たすべき役割が決して小さくないことは、今回の各報告によれば明白であり、それだけに日本外交の今後を注視していきたい。

なお当ワークショップについては、英語版・日本語版それぞれの報告集が出版予定であると聞いている。この日の成果が継承されていくことを願うばかりである。
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