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第5回中央ユーラシア研究会報告
小沼孝博(日本学術振興会特別研究員・東京大学)

 概要

  • 日時:2007年2月17日(土) 13:00~17:00
  • 会場:東京大学本郷キャンパス法文1号館2階、214番教室
  • 報告者:バフティヤール・イスマーイール氏(京都大学文学研究科博士後期課程)
  • タイトル:「中国社会科学院民族研究所に所蔵されるチャガタイ語、ペルシア語写本について」

 報告

今回の一人目の報告者であるバフティヤール氏は,現在,チャガタイ語やペルシア語の写本史料を利用し,ヤルカンド=ハーン国史研究に取り組んでいる。氏の研究成果の一部は,既に「分裂期におけるヤルカンド・ハーン国─東部政権の動向を中心に」(『西南アジア史研究』64: 15-34,2006)として公表されているので,参照されたい。

さて,今回の報告は,バフティヤール氏が2006年夏に実施した調査にもとづき,中国社会科学院民族学・文化人類学研究所(旧民族研究所)所蔵のチャガタイ語・ペルシア語写本の規模・内容について具体的に紹介するものであった。先ず,1950-60年代に新疆で実施された文献収集,それらの一部が同研究所に所蔵されることになった経緯,及び収集後の写本の整理・修復作業について説明した。現在,印刷物を含め,アラビア文字を用いた各種言語の文献は約200点を確認でき,このうちチャガタイ語・ペルシア語写本は37点である。ただし,保存状態は決して良好とはいえず,また閲覧と利用に関する明確な規定がないため,職員により対応が異なるケースがあるという。続いて,氏が作成したチャガタイ語・ペルシア語写本リストをもとに,所蔵写本37点の基礎情報を提示し,さらに,iya’ al-Qulūbafar Nāmaという2点のチャガタイ語写本を取り上げ,既知の写本と比較しながら,両写本の持つ特徴をいくつか指摘した。特に前者のチャガタイ語訳(原本はペルシア語)の存在はこれまで知られておらず,またその構成も途中からチョラースのAnīs al-Tālibīn (ペルシア語)の部分訳になるなど,ユニークな点がみとめられる。

報告後の質疑応答において,同研究所での調査経験を持つ研究者からの発言にもあったが,同研究所での文献調査は決して容易とはいえない。バフティヤール氏の報告は,同研究所所蔵のチャガタイ語・ペルシア語写本の現状を,網羅的且つ具体的に紹介したものであり,極めて価値の高い報告であったといえよう。
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