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第4回中央ユーラシア研究会報告
吉村貴之氏(東京大学大学院総合文化研究科産学官連携研究員)

 概要

  • 日時:12月9日(土)14:00-17:00
  • 会場:東京大学本郷キャンパス法文1号館2階、217番教室
  • 講演者:立花優氏 (北海道大学博士課程)
  • タイトル:「アゼルバイジャンの政治体制:新アゼルバイジャン党を中心として」

 報告

今回は新進気鋭の政治学研究者である立花優氏に、独立後のアゼルバイジャンの支配構造を分析していただいた。発表は2部構成で、第一部は「新アゼルバイジャン党と政治体制」と題して、与党新アゼルバイジャン党の成立と組織を概説したうえでヘイダル・アリエフの強権的な大統領体制を解析した。また、第二部は「政治エリートの変遷を検証する」と題して、1991年以降に発生した政権交代と共和国の党、行政府ならびに有力国営企業の人事交代との関係からアゼルバイジャンにおける人脈政治の特徴を考察した。

今回の発表の中心となった第一部では、比較政治学の理論である政府党体制(藤原帰一)や政党型権威主義体制(岸川毅)の議論をたたき台にしながら、これまで政党政治の伝統がなかった旧ソ連のアゼルバイジャンにおいて巨大与党新アゼルバイジャン党はどのような役割を果たしているかが議論された。もともとはヘイダル・アリエフを政界復帰させるための組織だった新アゼルバイジャン党は、ムタリボフ政権、エリチベイ政権という短命政権を引き継いでアリエフ体制が確立していく過程で、大統領を議会から支える翼賛政党に成長していくことになる。特に、この発表では党組織の規模、財政、さらには選挙制度の解析を軸に、民主選挙や西欧型政党政治を欧米諸国から求められる政治環境の中で、ソ連時代の共産党のようなエリートの統合と利害調整機能を温存する役割を与党が負わされていることが明らかにされた。同時に中央アジア諸国に比べて野党の活動の自由が大きいとされながらも、政府の干渉や国民の間での不人気が原因で大統領の支配を脅かす存在にならないことも大統領の強権政治が継続する一因となっている点が指摘された。

わが国の中央ユーラシア地域研究では、フィールドワーク的現状分析は、歴史研究に比べると関係各国の情報公開の不備もあり、質量ともに不足気味であったが、今回の発表ではそうした困難を乗り越えて理論操作にとどまらずに事例研究へと接近する姿勢がうかがわれた。また、ロシア・旧ソ連政治の研究者に加え、外交や石油ビジネスといった実務に携る方々と発表者との間で活発な質疑応答が交わされるなど、今後この分野の広がりや深化を予感させるものとなった。
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