2010年度 第8回パレスチナ研究定例研究会


報告者 今井静(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程)

報告タイトル 「パレスチナ問題におけるヨルダンの役割

         ―湾岸危機からオスロ合意、対イスラエル和平条約まで」

日時:10月11日(月・祝)12時~17時

会場:東京大学東洋文化研究所 大会議室(3F)

 本報告は、パレスチナ問題の転換期であるオスロ和平前後の中東地域の状況について、ヨルダンの動向を中心に考察したものである。ヨルダンは、パレスチナ問題の主要なアクターでありながら、オスロ合意によってPLOとイスラエル政府が相互承認を果たした後は、パレスチナ問題の当事者としての研究の対象からは外れていた。そのため、本報告ではパレスチナ問題におけるヨルダンの役割がどのように変化したのか、またその動向を決定した要因は何かという二つの問いを基に、1990年の湾岸危機から94年のイスラエル・ヨルダン和平条約締結までの状況を考察の対象とした。

 報告者は、①PLOがパレスチナ人の代表機関として国際的な承認を得るようになったことで、ヨルダン政府が西岸地区およびパレスチナ人に対する働きかけの正当性を失ったこと、②パレスチナ問題の存在を理由とする反イスラエル(または反米)の姿勢が、アラブ諸国の統一的な行動をもたらす要因としては機能していないことが湾岸危機によって明らかとなったこと、の二点が1990年代前半のヨルダンの動向を決定したことを指摘した。そのうえで、ヨルダンの役割がパレスチナ問題の当事者から仲介者に変化したために西岸地区よりも国内の統合に目を向ける必要が生じたこと、そして、イスラエルに対する前線国家というそれまでアラブ諸国の中で担ってきた役割の重要性が低下したことで、新たな役割を模索する段階にあると結論付けた。

 以上の報告に対して、出席者からは地域情勢におけるヨルダンの重要性はイスラエルとの友好関係を結んだ現在でも以前とは別の形で継続していることや、対パレスチナ関係に加えて対イラク関係についても考察することで、当時のヨルダンの動向についてより深い分析が加えられることなど、多数のコメントが寄せられ活発な議論が行われた。

                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
GROUP2
  Structural Change in Middle East Politics