「中東の民主化」を考える公開セミナー

日時:201132() 16:0018:00

場所:東京大学法文2号館1番大教室

講演者・講演題目:

 福富満久((財)国際金融情報センター主任エコノミスト)
      「チュニジア・アルジェリア・リビア情勢」

 鈴木恵美(早稲田大学准教授)「エジプト情勢」

 松本弘(大東文化大学准教授)「イエメン情勢」

 吉川卓郎(立命館アジア太平洋大学助教)「ヨルダン情勢」

司会:長沢栄治(東京大学教授)

 

概要:

福富は理論的な視点から民主化のプロセスを説明した上、アルジェリア、チュニジアおよびリビアの騒乱と民主化展望について分析を行った。まずこの三カ国と国際経済との関係、特にエネルギー供給を大きく北アフリカに依存している欧州との関係を指摘し、三カ国の政変の経済的側面を説明した。またこの三カ国の社会経済的構造と歴史的経験が異なることによって、反対派に対してそれぞれの政府の対応も違っているとも説明した。今後の展望に関して、福富は6月に選挙を予定しているチュニジアは中道で経験豊かな弁護士や元外交官が当選することになれば政治の安定化と民主化が期待できるという楽観的な見方を提示した一方、内戦状態に陥っているリビアの情勢の行方に悲観的な見通しを示した。

 エジプト情勢について鈴木は政変が一段落ついているという見方に賛成したが、民主化に向かっての改革が漸く始まった段階にあるという意見を述べた。鈴木によれば、「1月25日」革命には「軍事クーデター」という側面と「大衆革命」という側面がある。報告者はエジプトの政治体制に圧倒的な影響力を持っている軍はムバーラク大統領反対派デモ隊に暴力をふるわないという声明を出したことが結果的に「大衆革命」を後押ししたという。展望について、最高裁の判事を中心に8人からなる憲法改正委員会は作成した改正草案の条項、特に大統領任期4年間に短縮、立候補条件の緩和、判事による選挙の監視制度の改革などに触れ、現時点において改革が着実に進んでいると評価した。報告者は最後に現在のエジプトが有権者の統制、政治領域における競争(特にデモ勢力の政治政党への取り込み)および政治的自由という分野においておおむね改善の方向に進んでいると述べた上、今後の課題として軍の政治関与やムスリム同胞団の政治参加の行方に指摘した。

松本はイエメン情勢について現在メディアで主流となっている独裁者(サレハ大統領)対民主主義を求める市民という認識に一石を投じ、サレハ大統領は比較的に自由度・公正度の高い選挙を通じて当選しているし、この20年で民主化改革と経済改革を推進してきたと説明した。松本によると現在の反政府派の中心となっているのは若年層の大学生であり、かられは1990年代前半のイエメンの内戦および経済困難の状況を記憶してない世代である。一方、イエメンのサイレント・マジョリティはイエメンに政治的および経済的安定をもたらしたサレハ大統領をまだ支持している。そして今後のイエメン情勢の展開においてこのサイレント・マジョリティは鍵を握っていると分析した。

吉川は政変が勃発しているほかのアラブ諸国と比べて、ヨルダンの情勢が穏やかであると指摘した。政治的課題と並んで、ヨルダンの場合もやはり物価の急激な上昇に対する不満もある反対派は、体制変化ではなく、改革を求めている。政府側も反対派のデモを武力弾圧するよりも対話を重視している。報告者は選挙法や集会法の改正案がつくられたり、アブドラ国王が首相を交代させたり、政府がすでに反対派の要求の一部に応じていると説明した。情勢の展望について、吉川は反対派を構成している政党や労働組合や部族、それぞれの要求に隔たりがあり、反対派の要求は体制打倒まで発展する可能性が低いという。他方、政府も反対派を分裂させ、その要求の一部に応じることで事態の沈静化をはかろうとしている。

 

                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
GROUP2
  Structural Change in Middle East Politics