グローバルCOE「死生学の展開と組織化」
      との共催による国際
シンポジウム
   DIALOGUE ON DEATH AND LIFE: VIEWS FROM EGYPT
          

国際研究会議「死生に関する対話:エジプトからの視点Dialogue on Death and Life

共催:グローバルCEOプログラム「死生学の構築と展開」、エジプト文化省(高等文化評議会)、アレクサンドリア図書館Bibliotheca Alexandrina、日本学術振興会カイロ研究連絡センター、カイロ大学文学部社会調査センター

I. カイロ・フォーラム「死生の境界を越えてBeyond the Border of Death and Life

日時:2009929日(火) 19:0020:002009930日(水) 10:0019:45

場所:Supreme Council of Culture, Cairo Opera House

プログラム:

29 September 2009

Opening Ceremony of the Conference , Welcoming Address

Mr. Ali Abou Shadi (Secretary General, Supreme Council of Culture)

Prof. Susumu Shimazono (The University of Tokyo)

  Director of Global COE Program “Development and Systematization of Death and Life Studies”

    Mr. Hajime Kishimori (Director of Information and Cultural Center, Embassy of Japan)

    Dr. Emad Abou Ghazi (Supreme Council of Culture)

 

30 September 2009

Opening Remarks:

H.E. Mr. Kaoru Ishikawa (Ambassador of Japan to Egypt)

Introductory Address:

Prof. Susumu Shimazono (The University of Tokyo)

  “What is Death and Life Studies? A New Approach from Japan

Keynote Speeches:

Prof. Ahmad Zayed (Cairo University)

  “Interweaving Life and Death in Egyptian Culture”

Prof. Soho Machida (Hiroshima University)

  “Beauty of Eternity vs. Beauty of Perishabitity”

Comments:

Prof. Hassan Hanafi (Cairo University)

Prof. Tetsuya Ohtoshi (The University of Tokyo) 

 

1st Session: This World and The Other World: From Philosophical, Theological, and Comparative Religious Perspectives

Chair: Hiroyuki Yanagihashi

Prof. Izumi Suzuki (The University of Tokyo)

  “A Free Man Thinks of Death Least of All Things”

Dr. Kyoko Yoshida (The University of Tokyo)

  “Theory of Supplication (du’a) in Shi’ia”

Prof. Hala Fouad (Cairo University)

  “Imagination of the World and the Hereafter, Early Sufi Models”

2nd Session: Souls, Sprits, and Life after Death Session: Dealing with the Dead and their Bodies

Chair: Mohamed Afifi

 Dr. Hiroe Shimauchi (The University of Tokyo)

   “Who is Foolish Fire? Fire Ball and its Interpretation in Japanese and German Folklore”

Prof. Sameeh Shallan (Cairo University)

  “The Soul and Life after Death in Egyptian Thought”

Prof. Ahmed Morsy (Cairo University)

  “About Death (away from able)”

Concluding Discussion

  Chair: Pro. Ahmed Zayed

        Prof. Tetsuya Ohtoshi

II. アレクサンドリア・フォーラム「死生の表現と制度Representations and Institutions of Death and Life

日時:2009102日(金) 1900-2000,  3日(土) 10:0019:45

場所:Bibliotheca Alexandrina

プログラム:

2 October 2009

Opening:

Ismail Serageldin, (Bibliotheca Alexandrina)
Ashraf Farrag, (Dean of Faculty of Arts, Alexandria University)
Susmu Shimazono (The University of Tokyo)

3 October 2009

Opening Lecture:

Galila El Kadi  (Institut de Recherche pour le Developpement, France)

The Architecture of the Dead: Cairo’s Medieval Necropolis

1st Session: “Death and Life” relating to Visual Culture

Chair: Abd El-Halim Nureldin, (Bibliotheca Alexandrina)

Lovay Mahmud (Bibliotheca Alexandrina) “Life and Death Rituals in Ancient Egypt

Khaled Azab (Bibliotheca Alexandrina) “The Symbolism of Mausoleum Domes in Egypt

Akira Akiyama (The University of Tokyo)

“Human Remains and Figurative Images: A Comparison between Buddhist and Christian Practice”

Kana Tomizawa (The University of Tokyo)

“Commemoration of the Dead and Modern Obelisks in British India

2nd Session: Dealing with the Dead and their Bodies

Chair: Izumi Suzuki(The University of Tokyo)

Tomoko Morikawa (Hokkaido University)

“Pilgrimage of the Dead: ‘Transfer of Corpses’ to the ‘Atabāt from Qajar Iran

Mamoru Fujisaki (The University of Tokyo)

“Popes Need a Prayer: A Consideration on the Papal Death in the Thirteenth Century”

Faruq Mustafa (Alexandria University)

                      “Custom and Traditions of the Egyptian People concerning Death and Dead Bodies”

3rd Session: Legal Aspects of Death

Chair: Saïd El Dakkak

Hiroyuki Yanagihashi (The University of Tokyo) “What is Inherited in Islamic Law?”

Magdi Girgis (Kafr al-Sheikh University) “A History of Mourning and Slapping”

Muhammad Kamal al-Din Imam (Alexandria University)On the Notion of Death in Islamic Thought”

 Slide Show

Mansour Othman, “The Ancient City of El Bagawat in the Western Desert, Egypt

Concluding Discussion

概要:

  本シンポジウムは、数年をかけて用意されたが、NIHUイスラーム地域研究側の共催許可を受けて準備を進める過程で、イスラーム地域研究本体の国際会議も、カイロ開催が決定された。本シンポジウムの2ヶ月後の12月に、同じくカイロで開催されるため混乱も予想されたが、杞憂であったと言って良かろう。逆に、本シンポジウムで得られた人脈アフマド・ザーイド氏他や懇親会方式、報道対応などがイスラーム地域研究の国際会議でも引き継がれたため、結果として良い流れを作ることができた。

  今回のシンポジウムDIALOGUE ON DEATH AND LIFEは日本とエジプトとの間で、少なくとも日本研究以外の文系の事例として、双方が完全に平等にコミットして国際研究会議を実行するおそらく史上初めての試みであったろう。ここで「平等に」というのは、経済的負担も含めてのことである。この意味では、日本とエジプトとの文化交流・共同研究の在り方の転換点をなすものと評価されるべきなのかも知れない。GCOE死生学にとっても、中東イスラーム諸国で行う最初の共同研究であった。その場所として、人材と研究蓄積が豊富で、世界への発信力を有するエジプトが選択されたのである。

  さて、928日深夜にカイロ空港へ到着した我々は、翌29日午後にまず、ウォーミングアップを兼ねて、幾つかモスクなどを見学の後、考古学博物館で古代エジプトにおける死生について思いをめぐらせた。夕刻からはカイロでの開催場所、オペラ・ハウス内の高等文化評議会国際会議場へ移り、ファールーク・ホスニ文化大臣主催のレセプションと開会セッションを行った。控室からすでに人が溢れていたが、会場の熱気はさらに凄まじく、現地の研究者たちに加えて、取材のマスコミ陣も多かった。    

まず、文化大臣に代わって、エマード・アブー・ガーズィー博士が挨拶、ホスニ大臣は直前のユネスコ事務局長選に敗れ、現地では日本が決定的役割を果たしたと報道されたため、険悪な雰囲気も予測されたが、全くの杞憂であった。続いて本GCOEの島薗進リーダー、在エジプト日本大使館広報文化センター長の岸守一氏が挨拶した。さらにTV・ラジオ・新聞など報道陣の取材が続いたが、その全てに対応することは不可能であった。この日だけでも、参加者は随分と交流を深めることが出来たと思う。

  翌30日は、冒頭に在エジプト日本大使館の石川薫大使よりご挨拶いただき、その後、島薗進リーダーが死生学研究の概説とその目指すものについて、全体の導入をなす報告を行った。次いで基調講演として、アフマド・ザーイド教授カイロ大学前文学部長/社会学と町田宗鳳教授広島大学/宗教学にお話しいただいた。各々、エジプトと日本の事例を中心に図版も多く使用した講演であり、シンポジウム全体を見渡す多くの問題提起をしていただいた。これに対するコメントを、ハサン・ハナフィー教授カイロ大学/哲学と筆者が述べた。

  そして、第1セッションは、「現世と来世---哲学・神学・宗教」と題し、柳橋博之准教授東京大学/イスラム法学の司会のもと、鈴木泉准教授東京大学/哲学、ハーラ・ファード講師カイロ大学/スーフィー哲学,及び吉田京子特任研究員GCOE/シーア派思想が研究発表を行った。西洋哲学、スーフィー哲学、シーア派思想、とそれぞれ背景は異なるものの、エジプトでも哲学的対話が成立つとことが示された。

  2時間強の昼食ブレイクの後、第2セッション「霊魂と死後の生」となった。エジプト側からアフマド・ムルスィー教授カイロ大学/社会学・民俗学とサミーフ・シャアラーン博士芸術アカデミー民衆芸能高等研究所長、日本側から嶋内博愛特任研究員GCOE/ドイツ民俗学が発表した。このセッションは今回の目玉の一つで、実際に現地では最も関心と評価が高かったものの一つである。エジプトの民俗学者・人類学者は死生学について豊富なデータを集積し、多大な関心を寄せてきたにもかかわらず、主にアラビア語によってのみ活動してきたために、これまで日本や欧米との交流がほとんどなかった。今回は本格的な交流の嚆矢となったと言えよう。

  最後に、アフマド・ザーイド教授と筆者が共同司会し、全体討論の場を設けたが、会場のエジプト側からの質問・コメントが止まることなく、時間の制約ゆえ終了とした。筆者はその後に、運営全般と協力者に謝辞を述べて閉会の挨拶とした。

  そののち、エジプト側を慰労する懇親会を持ち、さらにヨットを借切って夜更けまでナイル川を上下に航行しつつ、埃日の懇親を深めた。ナイルの川面を渡る夜風に吹かれ、参加者と運営側が一つになれた幸せなひとときであった。

  翌101日は終日を研修・見学に充てた。夕刻まで「死者の街踏査」「キリスト教文化探訪」「古代エジプト遺跡」の3グループに分かれて行動した後、フサイン・モスク前に集合して、書店街や書籍探し屋の蔵などを訪問した。特に死者の街では、現地の人ですらほとんど訪れることのないユースフ兄弟廟などを訪問したほか、墓堀りの住む墓館を訪ね、実際にムスリムの墓造りの現場を教えてもらった。また、別の墓地居住者のお宅で聞き取りも行なった。

  102日は早朝からアレクサンドリアへ移動。午後から、アレクサンドリア図書館側が御厚意で準備してくれた特別見学コースへ向かった。まず、ユダヤ墓地の内部や地下埋葬室などを、現地ユダヤ教徒のユースフ氏に解説同行いただいた。アレクサンドリアのユダや墓地訪問は、日本として初めてのことであろう。次にコプト・キリスト教徒の墓地、第一次・第二次大戦期の欧米人墓地、ムスリム墓地・聖者廟などを見学した。イスラームが広まる以前から現在までエジプトに展開するコプトの墓地も、実は専門家でもなかなか入構できない、極めて貴重な機会である。

  夕刻、我々はアレクサンドリアの会場であるアレクサンドリア図書館Delegates’ Hallでの開会式へと向かった。同図書館は、古代のアレクサンドリア図書館にちなんで再建されたものである。シンポジウムの語源を古代アレクサンドリア図書館におけるシュンポシオンにあるという説もあるが、それに従えば、われわれはシンポジウムの語源になぞらえたことになろう。会場は恐らく150人程度の人々の熱気に包まれており、後に参加者の名簿を見て、遠くカイロや近郊の都市からも多くの市民が参加して下さったことを知った。

  冒頭にハーレド・アザブ博士同図書館広報センター長/イスラム考古学が挨拶を行い、次いでヤフヤー・ザキー教授同図書館学術文化部門長、アレクサンドリア大学前医学部長が医師としての現場を踏まえた貴重な講演をして下さった。同じくアシュラフ・ファッラージュ教授アレクサンドリア大学文学部長/言語学も趣の深いスピーチをして下さった。日本側からはやはり島薗リーダーによる挨拶の後、日本学術振興会カイロ研究連絡センター長の大石悠二先生からも貴重なご挨拶をいただいた。

  103日は、基調講演として、ガリーラ・エル・カーディー博士フランス開発科学研究所/都市工学をパリから招き、カイロのいわゆる「死者の街」について、都市計画や開発の立場から、歴史的視点も絡めて講演していただいた。死者の街を描いた仏制作の映画も併映された。

  この日の第1セッションは、「死生と造形文化」と銘打ち、ロワイ・マフムード博士アレクサンドリア図書館書道センター長/考古学、ハーレド・アザブ博士前出がアレクサンドリア側から、秋山聰准教授東京大学/美術史と冨澤かな特任研究員GCOE/インド宗教研究が日本側から報告した。図版の豊富な報告が続き、図書館講演ホールの優れた上映設備が大変役立った。また、古代エジプト、イスラーム建築、西洋と日本の美術、インドのオベリスク建築など、扱う内容が多彩でかつ議論が収斂して好評を博した。

  講演ホール内に併設の貴賓客用食堂で昼食をとったのち、午後の第2セッションへと臨んだ。これは「死者と身体性」と題したもので、日本からは守川知子准教授北海道大学/イラン史、特にイスラーム地域研究から派遣と藤崎衛特任研究員GCOE/西洋中世史、アレクサンドリア側からはファールーク・ムスタファ教授アレクサンドリア大学/社会人類学とマーギド・アッラーヘブ博士エジプト遺産保存協会/コプト建築家が報告を行った。これまでその名前こそ夙に知られてきたものの、日本との研究会議には初登場であるムスタファ教授や、コプト・キリスト教徒のアッラーヘブ博士と交流できたのは収穫であるし、日本側の報告内容も関心を集めた。

  第3セッションは「法から見た死生」と題し、サイード・アッダッカーク教授前アレクサンドリア大学副学長/法学の司会のもと、日本・エジプトのイスラーム法学の専門家に、コプト・キリスト教の法的側面の報告も加えるという野心的なものであった。日本からは柳橋博之准教授東京大学/イスラム法学、エジプト側からはムハンマド・カマールアッディーン教授アレクサンドリア大学/イスラム法、マグディー・ギルギス講師カフル・アッシェイフ大学/コプト史というラインアップであった。時間不足が残念であった。

  つづいて、マンスール・ウスマーン博士ワーディー・ゲディード考古局長/考古学による西部オアシス地域バガワートにあるコプト遺構のスライド・ショーが行われた。最後に町田宗鳳教授とロワイ・マフムード博士によるまとめの討論に会場からやはり多くの質疑が続いた。ここもやむを得ず時間で区切り、筆者の挨拶で会議を締めくくった。

  翌4日は早朝から図書館のVIPツアーを用意していただき、アレクサンドリアに名残を惜しむ間もなく、カイロ空港へ直行、主だった者はそこで帰日した。

  今回のシンポジウムは、最初にも述べたように、エジプトと日本との学術交流の在り方に再考を促す、画期的なものとなった。それゆえ、現地マスコミによる取材攻勢も凄まじく、島薗リーダーがテレビニュース番組を含む4局、私が6「徹子の部屋」のような2時間対談番組を含む、他のエジプト側参加者も4局以上に出演し、ラジオも各々2局までは対応したが、それ以上は時間的に無理で断らざるを得なかった。新聞も欧米ベースで世界的に読まれる『アッシャルク・アル・アウサト』や代表的な現地紙である『アフラーム』や『グムフーリーヤ』などを筆頭に、のべ30紙以上に報道されたと思われる。なかには、サウジアラビアの新聞、ロイター、なぜかモロッコの新聞などにも、紹介・報告が続いた。これは予想を上回るもので、今後は事前にマスコミ対応も練っておく必要があると痛感している。さらに、アレクサンドリア在住の研究者たちとの本格的学術交流も初めての試みとして評価されよう。

  加えて、この報道量を受け、本シンポジウムで発表したいというアラブ各国からの研究者や死生学のプロジェクトに加わりたいという者、さらに日本で死生学を学びたいとする者も出て来た。これらへの対応も求められていよう。

  今回の反響を受け、島薗リーダーは2年後に日本でこの続編を行うことを宣言された。その折には、今回の試掘で明らかになった共通の論点や、今回は論じられなかったが次に焦点とすべき領域を論ずるなど、この結果を踏まえた対応が必要となろう。

 末筆ながら、今回のシンポジウムに多忙をおして参加された発表者の皆様、裏方として事務局を支えた特任研究員の方々、そして何より、現地で参加下さった延べ350人にも上るであろう研究者・市民・マスコミの方々、これらすべてに心より厚く御礼を申し上げます。

大稔哲也

  



                        NIHU Program: ISLAMIC AREA STUDIES
                          IAS Center at the University of Tokyo (TIAS)
                                            
GROUP2
  Structural Change in Middle East Politics