24 西洋史学専修課程
1.研究室活動概要
西洋史学研究室は1887年に史学科として発足し、1919年に西洋史学科として独立、講座の増設や制度の変遷を経ながら現在の専修課程に至っている。当初から、おもにヨーロッパの歴史を研究・教育し、部分的には北・南アメリカ史研究にも及んでいる。この間多数の指導的研究者・教育者を輩出し、また中高等教育や出版・マスコミの世界をはじめ、一般企業にも有為の卒業生を送りだしてきた。
西洋史学の対象は地理的に、ヨーロッパ全域から両アメリカ大陸まできわめて広範囲にわたる。時代的には古代・中世・近世・近代・現代のすべて、数千年におよぶ。また伝統的に、人文地理学をカバーしてきた。しかし研究と教育において、これらすべてにわたることは容易ではない。2006-2007年度は専任教員教授4名、准教授1名、専任講師1名、助手(2007年度から助教)1名であり、これに大学院授業担当の学内教員1名と学部授業担当の非常勤講師(2006年度5名、2007年度4名)の協力をえているが、なおカバーしうる領域に不足があることは否めない。
学部の専修課程は、毎年、ほぼ定数25名あるいはそれをいくらか上回る進学者をえており、在籍学生数は2006年度66名、2007年度62名である。学部の授業では、西洋史学・歴史地理学・現代史の講義と演習を開講している。大学院は、欧米歴史地理コース西洋史学専門分野を構成している。例年、博士課程6名、修士課程9名の定数にちかい入進学者を迎え、大学院在籍者は2006年度47名、2007年度46名である。博士課程の2年目から3年目にかけて、大学院生は、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、ノルウェー、ロシアなどへ留学し、現地の研究機関や文書館で研修し、博士学位論文の準備をおこなう。全体を通して、学生の関心領域は、従来に比べて広がりをみせ、ヨーロッパ周辺地域やアメリカ大陸、さらには欧米とアジアとの関係などが卒業論文をはじめとする学位論文の対象となることも多い。また、従来の政治史・経済史に加え、社会史や文化史の研究も盛んで、学界の現状をよく反映しているといえよう。教員による授業のほかに、大学院博士課程の学生をティーチング・アシスタントとするサブ・ゼミによって、学部学生の基礎的専門教育および卒業論文の作成指導をおこない、成果を収めている。リサーチ・アシスタント制の導入により、こうした体制はさらに充実しつつある。
以上のほか、研究室として学会活動にも参与している。日本西洋史学会大会運営理事校であり、1992年5月には、第42回大会を主催した。また、歴史文化学科の他の研究室とともに、財団法人史学会に理事、評議員、編集委員を送り、『史学雑誌』の編集や大会・例会開催などの業務を積極的に遂行している。そのほか各教員・大学院生が学内外の学会・研究会に評議員・会員として関与していることは言うまでもない。また、『国際歴史学文献目録』(事務局本部、在ローマ)をはじめ、わが国の西洋史学研究室を代表して、国際的な文献目録への編集協力を引き受けていることも、特筆すべきである。
2.構成員・専門分野
(1) 専任教員
近藤和彦 教授 近代イギリス史
石井規衛 教授 現代ロシア史
深沢克己 教授 近代フランス史
高山博 教授 中世史
橋場弦 准教授 古代ギリシア史
加納修 専任講師 中世フランス史
(2) 助手/助教の活動
加藤 玄
在職期間 2006年4月1日~2007年3月31日 助手
2007年4月1日~現在 助教
研究領域 中世フランス史
主要業績
「「都市」と「農村」のはざまで―中世南フランス都市史研究の一動向―」『年報 都市史研究』14号、2006年、132-146頁
「バスティドをめぐる紛争―中世南フランス史へのアプローチ」『歴史と地理』609(2007年)、53-56頁
3.卒業論文等題目
(1) 卒業論文題目一覧
2006年度
古代資本主義論争の行方
3月前期ドイツにおける政治運動 ナチスの勢力拡大と視覚的プロパガンダ:1933年までを中心に
クロアチア独立国における民族浄化とローマ=カトリック
中世イギリス都市の盛衰
17世紀ロシアの教会改革とモスクワ第三ローマ理念
リース=ロス・ミッションとイギリスの対日協調路線の限界
ロンドンにおけるコーヒーハウスと階層
オランダ独立戦争期のアムステルダムの経済発展:海上貿易の拡大・競争・外圧
中世初期ブルターニュ地方の共同体
1930年代のソ連統治と大テロル:大テロル期の統治機構と民衆
12から15世紀フランス南部のサンチャゴ巡礼扶助組織についての考察
18世紀から19世紀におけるイギリス国教会
19世紀イギリス国内海浜リゾート地にみる観光旅行文化
19~20世紀のグラスゴーにおけるフットボールと生活について
ヴィクトリア時代の女性:CD法をめぐる動きから
宗教戦争期ラ・ロシェルの改革派教会と市政:16世紀中葉から1628年まで
第二次世界大戦とアメリカの黒人
中世後期ネーデルラントにおけるベギンの運動
ロシア皇帝ニコライ二世暗殺の歴史的意味
アウグストゥスの建築にみる宗教的権威
中世後期におけるドイツ国王/神聖ローマ帝国皇帝の歓待礼:スイスを中心にして
帝国理念と聖職者:シャルルマーニュの時代
帝政末期ロシアと1930年代日本による満州への移民政策
ロンドンにおいてリヴァリ・カンパニーが果たした役割について:16・17世紀を中心として
2007年度
外交政策におけるチャーチルの思考分析―スペイン内戦を例に
19世紀中葉イギリスの鉄道輸出における鉄道建設請負業者の役割について
中世後期フィレンツェの都市建設と権力構造
冷戦開始期のソ連の極東政策策定におけるマリクの役割―対日対米関係を中心に
帝政ロシア期の農民生活―ピョートル期における農民逃亡を中心に
19世紀イギリス鉄道業経営における減価償却会計の適用について
宗教改革期における大学と知識人―政治的決定に
(2) 修士学位論文題目
2006年度
長澤優子「ヴァイマル共和国およびオーストリア共和国の成立期における国旗・国章の制定と両国の合邦問題」
<指導教員>近藤和彦
斉藤恵太「三十年戦争期のバイエルンと軍隊 -マクシミリアン一世とヤン・フォン・ヴェルト」
<指導教員>近藤和彦
佐藤庸介「スペイン第二共和制期カタルーニャにおける移民問題と同化政策構想」
<指導教員>石井規衛
大西克典「啓蒙改革期トスカーナ大公国におけるコムニタ令(1772-1786)」
<指導教員>深澤克己
野々村隼「宗教戦争期フランスの信仰と社会 リヨン・カトリック・リーグの言説を通じて」
<指導教員>深澤克己
向井伸哉「ルイ9世期の地方統治 -低ラングドック地方ベジエのヴィギエ管区を中心に」
<指導教員>高山博
森嶋純子「王政復古前期における非国教徒 -庶民院とロンドン-」
<指導教員>近藤和彦
和田学「19世紀後半から20世紀初頭のイギリスにおける税政策」
<指導教員>近藤和彦
2007年度
阿部ひろみ「中世末期ニュルンベルクの都市使節活動-神聖ローマ帝国の地域的秩序形成のあり方-」
<指導教員>高山博
鶴仁志「中世末期ブルターニュ「国家」の統治制度-財政を中心に」
<指導教員>高山博
丸山了「ドナティスト教会成立過程におけるイニシアティブ-カエキリアニズム運動-」
<指導教員>橋場弦
伊藤雅之「紀元前2世紀前後のローマ、およびペルガモン、ロドスの対外政策-地中海世界の一極化とそれへの抵抗-」
<指導教員>橋場弦
梶原洋一「中世後期における大学神学部の新設とドミニコ修道会の学校組織-モンペリエを中心に-」<指導教員>高山博
高山雄介「アラゴン連合王国国王ハメイ1世の地方統治:バレンシア王国のバイウルス(1257-1269)」
<指導教員>高山博
田瀬望「啓蒙期フランスのフリーメイソンにおける中央と地方:ボルドー「イギリス」会所の事例研究」
<指導教員>深澤克己
中込さやか「19世紀後半から20世紀初頭のイギリスにおける女子中等教育-セーラ・A.バーストールと家庭科教育-」
<指導教員>近藤和彦
(3) 博士学位論文審査題目
2006年度
青山由美子「11-12世紀におけるフランドル伯の尚書部」
<主査>高山博<副査>蔀勇造・池上俊一・橋場弦・加納修
志内一興「ローマ帝国内の支配・被支配関係におけるコミュニケイションの機能」
<主査>橋場弦<副査>桜井万里子・本村凌二・高山博・逸身喜一郎
佐藤昇「紀元前4世紀民主政アテーナイの政治文化と賄賂言説」
<主査>橋場弦<副査>桜井万里子・本村凌二・高山博・逸身喜一郎
田中良英「エカチェリーナ1世時代(1725-27年)におけるロシア統治構造の研究」
<主査>石井規衛<副査>近藤和彦・吉田伸之・金沢美知子・安成英樹
2007年度
田付秋子「初期中世アイルランドの法文書と紛争解決」
<主査>高山博・蔀勇造・橋場弦・加納修・池上俊一
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