文学部とは、人が人について考える場所です。
ここでは、さまざまな人がさまざまな問題に取り組んでいます。
その多様性あふれる世界を、「文学部のひと」として、随時ご紹介します。
編集部が投げかけた質問はきわめてシンプル、
ひとつは「今、あなたは何に夢中ですか?」、
そして、もうひとつは「それを、学生にどのように伝えていますか?」。

金 成垣 准教授(韓国朝鮮文化研究室)

第1の答え

私は,福祉国家という視点から,欧米諸国との比較で日本や韓国を含むアジア諸国の類似と相違そしてそれをもたらした社会的および歴史的要因について研究をしています。福祉国家に関する研究は,欧米生まれのものが主流ですが,日本においてもその歴史は長く,数多くの研究成果が出されています。私はこれまで,その成果を積極的に吸収しながら自分の研究を進めてきました。

そうするうちに最近,福祉国家に関する研究そのものより,それを研究してきた人々に興味をもつようになりました。それらの人々,すなわち福祉国家の研究者たちが,どのような背景からこの分野に入り,どのような考え方や方法をもって研究を進め,どのような主張を述べ,またどのようなきっかけで考え方や方法を修正あるいは補完し,自分の主張を守ったり変えたりしてきたのか,等々です。つまり「福祉国家研究者としての○○○○」という人物についての研究です。

この研究を進めることで,それぞれの研究者とその研究活動の背後にある経済や政治を含む社会的状況を,これまでとは異なる視野で眺望することができ,非常に面白いです。さらにそれを,他の国の,また他の時代の「福祉国家研究者としての○○○○」との関係性のなかでみることで,それぞれの社会的・歴史的状況の連続と断絶を新鮮な感覚で描くことができるのではないかと思っています。

 

第2の答え

多くのドラマや映画は,ある出来事があって,それをめぐる主人公や周りの人々によって全体のストーリーが構成されます。ストーリーの展開のなかでは,その出来事をめぐる登場人物の振る舞いが面白く描かれるわけですが,じつは,作者はあえて言わないですが自ずとそこに反映される社会的あるいは歴史的文脈が興味深く伝わってくることがしばしばあります。社会科学の研究者はむしろその社会的・歴史的文脈に興味をもつことが多かったりします。だから,研究者によるドラマや映画の話では人物が背後に退き,つまらない話に化してしまうことが多いです。

しかしドラマや映画を観る側は研究者とは限りません。ストーリーが展開される社会的・歴史的文脈とは関係なく,出来事をめぐる登場人物の振る舞いが面白ければそれでよいかもしれません。それが面白く伝われば,その背後にある社会的・時代的文脈に対しても好奇心が湧くでしょう。

最近,私が興味をもっている「福祉国家研究者としての○○○○」とのかかわりでいえば,ドラマや映画のように,「ある出来事=福祉国家」をめぐる「登場人物=研究者」の「振る舞い=研究活動」を,学生たちに面白く伝えることを試みていきたいと思います。それによって,各福祉国家の類似と相違そしてそれをもたらした社会的・歴史的要因にも好奇心が湧いてくるはずです。

 

 

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