唐宋散文講読
担当教員  戸倉英美 学期:夏 月・2 赤門総合研究棟738
 中国の散文の歴史は先秦時代の『尚書』『春秋』、諸子の散文などに始まり、続く漢代の『史記』『漢書』は、散文叙述をさらに発展させたといわれる。しかし魏晋の頃から駢文、あるいは四六駢儷文と呼ばれる形式の美を追求した文章が生まれ、六朝時代を通して文の代表とされた。駢文に対する批判は、北朝の西魏の頃から繰り返し提起されたが、駢文は唐代に入っても衰えることなく、盛唐に最盛期を迎える。唐代半ば、韓愈と柳宗元は、先秦漢代の文章を理想とする古文運動を提唱、賛同者を得たものの、晩唐と北宋の初めはまた駢文優勢となり、古文の地位が確定するのは欧陽脩以後のことであった。授業では「文」の歴史的変遷をたどり、唐宋の代表的作家の散文を読む。

授業計画
 中国の文には、説・論・書・序・銘など多くの種類があり、これらは中国古典の用語で「文体」といわれる。今回の授業では主として「記」という「文体」に属する作品を読む予定。記は塔や楼など建物の完成を記念して執筆されたものや、景勝地に遊んだ記録、旅の記録などを主たる内容とする。議論よりも描写の要素が多いものを選んで鑑賞したい。

授業の方法
 事前に担当者を決め、演習形式で読み進める。

教科書
 プリントを配布する。

参考書
唐宋八家文 / 佐藤一郎著(中国古典新書) 明徳出版社 1968.9
漢・魏・六朝・唐・宋散文選 / 伊藤正文, 一海知義編訳(中国古典文学大系 第23巻) 平凡社 1970.10
唐宋八家文 / 三島毅評點(漢文大系 第3-4巻)増補版 冨山房 1972.10-12
韓愈 ; 柳宗元 / 筧文生著(中国詩文選 16)筑摩書房 1973.8
唐宋八大家文読本 / [沈徳潜評] ; 星川清孝著(新釈漢文大系 70-74,114) 明治書院 1976
唐宋八家文 / 横山伊勢雄訳(中国の古典 30-31) 学習研究社 1982-1983
唐宋八家文 / 筧文生著(鑑賞中国の古典 第20巻) 角川書店 1989.6
春草考 : 中国古典詩文論叢 / 前野直彬著 秋山書店 1994.2



担当教員  戸倉英美 学期:冬 水・2 赤門総合研究棟721
 李白・杜甫・王維らを輩出した唐代は、中国文学の歴史の中でも詩の黄金時代といわれ、わが国でも唐詩は『白氏文集』や『唐詩選』を通して古くから愛読されてきた。それに対して宋代の詩は、唐詩ほど悲しみを謳い上げることがなく、平静かつ論理的で、『詩情の散文化』『題材の日常化』に特色があるとされてきた。現代でも宋詩について論じる場合は、こうした評語を前提に出発するものがほとんどである。しかし実際に宋代の詩のいくつかを見てみれば、このような語を無批判に繰り返すことによって、宋詩の真実の姿が見失われてきたと考えざるを得ない。作品を読んで、唐詩とは異なる宋詩の魅力を再発見することを試みたい。

授業計画
 詩と楽府、詩と詞の関係を考慮しつつ、詩というジャンルの歴史を概観し、宋詩の文学史的位置を把握する。唐詩と宋詩それぞれからを適切な作品を選び、比較しながら読み進める。

授業方法
 一首ごとに事前に担当者を決め、演習方式で読み進める。

教科書
 プリントを配布する。

参考書
宋詩概説 / 吉川幸次郎著(中國詩人選集二集 ; 1) 岩波書店 1962  岩波文庫 ; 青(33)-152-3)2006
梅尭臣 / 筧文生注(中國詩人選集二集 ; 3) 岩波書店 1962
王安石 / 清水茂注(中國詩人選集二集 ; 4) 岩波書店 1962
蘇軾 / 小川環樹注(中國詩人選集二集; 5,6) 岩波書店 1962
黄庭堅 / 荒井健注(中國詩人選集二集; 7) 岩波書店 1963
陸游 / 一海知義注(中國詩人選集二集 ; 8) 岩波書店 1962(岩波文庫 ; 赤(32)-041-1) 2007
宋詩鑑賞辞典 / 前野直彬編 東京堂出版 1977
蘇軾・陸游 / 村上哲見, 浅見洋二著(鑑賞中国の古典 第21巻) 角川書店 1989



担当教員  戸倉英美 学期:通年 隔火・4‐5 赤門総合研究棟738
 楚の国の歌謡を集めた『楚辞』は、中原諸国の歌を集めた『詩経』と並ぶ中国最古の詩歌集である。『国語』には、楚は巫習の盛んな地であるとされ、『楚辞』の諸篇は、いずれも何らかの形で、巫覡によって行われた宗教活動と関わりのあるものと考えられる。今回はその中から「九歌」を精読する。「九歌」は山川の神々を祭る歌や、英霊を祭る歌など11篇から成り、『楚辞』の中でも最も古い層に属するといわれる。朱熹が「九歌」には神とそれを招く巫のように、複数の登場人物がいるという説を唱えて以来、各篇ごとに様々な劇的構成を見る試みが行われてきた。漢代から現代まで、多くの先人達の助けを借りながら、中国の古典の中でも最も幻想的な魅力に富んだ作品に挑戦してみよう。

授業計画
 昨年度は「九歌」の二番目の歌「雲中君」に入り、初めの四句の読解を進めた。主要な注釈は読み終わり、今年度は近現代の研究成果から始める。

授業の方法
 中国の古典を読むときには、歴代の研究成果である注釈を読むことが不可欠である。大量の注釈に足をすくわれることなく、必要な情報を手に入れるための力を養うこともこの授業の目標の一つである。
 具体的には、漢代から現代まで、代表的な研究を、担当者を決めて精読する。解釈の違いを比較検討した後、新たな視点から新解釈の可能性を探る。

教科書
 プリントを配布する。

参考書
日本人学生のために、入手しやすいもののみを挙げる。
楚辭 : 新譯 / 青木正兒 [著] 春秋社 1957.9
楚辭 / 藤野岩友著(漢詩大系 3) 集英社 1967.4
詩経 ; 楚辞 / 目加田誠訳(中国古典文学大系 第15巻) 平凡社 1969.12
楚辞 / 星川清孝著(中国古典新書) 明徳出版社 1970.11
楚辞 / 小南一郎著(中国詩文選 6) 筑摩書房 1973.7
楚辞 / 黒須重彦訳(中国の古典20) 学習研究社 1982.6
詩経・楚辞 / 牧角悦子, 福島吉彦著(鑑賞中国の古典 第11巻) 角川書店 1989.8
楚辞とその注釈者たち / 小南一郎著 朋友書店 2003.7

参考書を頼りに、『楚辞』の諸篇を出来るだけたくさん読んでおくことが望ましい。
ただし現代の学者の間にも、時として解釈に大きな違いがある。一つの説を鵜呑みにしないよう注意が必要。



担当教員  戸倉英美 学期:通年 隔火・4-5 赤門総合研究棟738
 中国の古典詩文は長い歴史と膨大な数の作品とを擁し、しかも作者はいつの時代も過去の文学の歴史をふまえて執筆している。どんな領域を研究対象とする場合にも、その歴史全体を視野に入れていることが要求される。この要求に応えるため、授業では様々な試みを行いたい。専攻する時代も分野も大きく異なる学生達が、それぞれ現在取り組んでいる研究について報告し、全員で討論することもある。外国人研究員として滞在している先生方や、時には学外からお招きした学者に、最新の研究についてお話しして頂くこともある。古典詩文の各領域に対する理解を深め、問題点と研究方法を学習すること、各自の研究を、文学史全体の中で捉える大きな視点を獲得することが、この授業の目的である。
 古典詩文を専攻する学生のための授業だが、白話・近現代文学・語学などを専攻する諸君の参加を歓迎する。履修登録せず、興味のある会だけ参加することもかまわない。学部生の参加もOK。それぞれの視点から遠慮なく発言し、討論に加わってほしい。

授業計画
 「楚辞講読」の授業と同じ時間に隔週で開講する。4月の最初の週は「楚辞講読」の授業を行い、そのときに出席者と相談して、詩文研究法の授業計画を立てる。
 構想発表・研究報告などの題目は、その都度中文研究室に掲示する。

授業の方法
○学生が、執筆中の論文の構想発表、あるいは完成した論文の報告を行い、全員で質疑と討論を行う。
○外国人研究員や、学外からのゲストの研究報告を聞き、質疑と討論を行う。
○学生が各自興味のあるテキストを用意し、全員で読解する。

教科書
 プリントを配布する。


担当教員  戸倉英美 学期:夏 水・2 駒場新5号館517
 『聊齋志異(りょうさいしい)』は清代の初めに書かれた短篇小説集です。「聊齋」は作者蒲松齢(ほしょうれい・1640-1715)の書斎の名、「志」は「誌」と同じで、「しるす」ということ、つまりこの書名は、蒲松齢が書いた不思議な話という意味で、中国の「異」をしるす小説を集大成したものといわれています。洋の東西を問わず、文学には、現実には存在しない不思議な世界を描くものがあります。西洋では、幽霊や吸血鬼の活躍する怪奇小説と、妖精物語、そしてSFがそれぞれに異なるルールで、非現実の世界を作り出しています。中国の代表的な異界は、仙人の住む神仙世界と、幽鬼がすむ死後の世界ですが、蒲松齢は伝統を踏まえながらも、豊かな想像力で、新しい不思議の世界を作り出しました。翻訳と漢文訓読法を使って作品を読み、『聊齋志異』の「異」とはどんなものかを考えたいと思います。

授業計画
 中国では、不思議な出来事を記録することが4世紀ごろから始まり、六朝時代(後漢滅亡から隋による統一まで)を通して「志怪」と呼ばれる書物がたくさん書かれました。唐代になると「志怪」をもとに、「伝奇」と呼ばれる虚構の物語が誕生します。芥川龍之介(1892-1927)の短編「杜子春」のもとになった「杜子春伝」や、中島敦(1909-1942)「山月記」の原作である「李徴」などは、唐代を代表する作品のひとつです。「唐代伝奇」から『聊齋志異』までおよそ九百年、異をしるす小説は書き継がれました。とはいえ基本的な筋立てはいつも同じ、新しい物語が生まれなくなって久しくたってから、『聊齋志異』が現れました。異をしるす文学の歴史をたどり、『聊齋志異』の新たな創造の意味を考えます。

授業の方法
 漢文訓読法で原作を読む場合は、数行ずつ事前に担当者を決めて行います。但しこの授業の目的は、漢文訓読法に習熟することではなく、『聊齋志異』という作品を通して中国の歴史や文化を学ぶことですので、漢文訓読が苦手であっても、支障はありません。

履修上の注意
 原作は漢文訓読法で読解するので、現代中国語を履修していることを要求しません。また漢文訓読法ですらすらと読めることも要求しません。広く中国に関心を持つ諸君を歓迎します。

教科書
 プリントを配布する。

参考書
聊齋志異 / 蒲松齢著 ; 増田渉, 松枝茂夫, 常石茂訳(中国古典文学大系 ; 第40巻-第41巻) 平凡社 1970-1971
聊斎志異 / 蒲松齢作 ; 立間祥介編訳(岩波文庫 ; 赤(32)-040-1, 赤(32)-040-2) 岩波書店 1997
聊斎志異 /黒田真美子編著(中国古典小説選; 9-10) 明治書院 2009
『聊斎志異』を読む : 妖怪と人の幻想劇 / 稲田孝著(講談社学術文庫 ; 1492) 講談社 2001
唐代伝奇集 / 前野直彬編訳(東洋文庫 ; 2,16) 平凡社 1963-1964
六朝・唐・宋小説選 / 前野直彬編訳(中国古典文学大系 ; 第24巻) 平凡社 1968
搜神記 / 干宝著 , 竹田晃訳(東洋文庫 ; 10) 平凡社 1964
幽明録 / 劉義慶著 . 遊仙窟 : 他 / 張鷟著 ; 尾上兼英, 前野直彬[ほか]訳(東洋文庫 ; 43) 平凡社 1965


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